2012-01-01から1年間の記事一覧

「ら抜き言葉」について

北村薫『読まずにはいられない―北村薫のエッセイ』(新潮社)を読んでいる。まるで福袋のような「お得感」のある本。たとえば、「円紫さんと私シリーズ」*1の第一作(にしてデビュー作)『空飛ぶ馬』単行本のカバーに書かれた「著者の言葉」、かの有名な、「…

「送り仮名」について

明治二十四年(1891)に博文館から刊行された紅葉尾崎徳太郎『鬼桃太郎』は、紅葉の作品としては比較的マイナーであるかもしれないが、昭和五十年(1975)、ほるぷ出版から覆刻刊行されている。 同作品については、唐沢俊一『カラサワ堂怪書目録』が、「アン…

『筆順のはなし』

現在の筆順指導は、1958(昭和三十三)年3月31日発行の『筆順指導の手びき』(以下『手びき』)にもとづいている。その基本は「左から右へ」「上から下へ」の二点、さらに例外則として、「中から左右へ」(ex.小、山、水、業)、「しんにょう、えんにょうは…

読書メモ抄

九月某日 Mの均一棚でひろっていた、鍬本實敏『警視庁刑事―私の仕事と人生』(講談社文庫)を車中読む。聞き書き形式。鍬本氏のことは、高村薫『マークスの山』経由で知り、その著作も、出久根達郎『粋で野暮天』(文春文庫)で紹介されているので知っては…

この一年に観た映画

前回から一年以上たってしまったので、映画メモをアップしておきます。この順番で観た、というわけでは必ずしもありません。 気に入った度合を(つまりまったくの主観によりますし、体調に影響されるばあいもあります)、星の数であらわしています(5点満点…

吉川英治『鳴門秘帖』

吉川英治が亡くなって、ことしで五十年になるという。吉川英明『父 吉川英治』(講談社文庫)が6月に新装復刊されてはじめて知った。 吉川といえば、『宮本武蔵』や『新書太閤記』、『新・平家物語』、『私本太平記』、『三国志』などの大長篇小説をはじめ、…

「けいずかい」

「けいずかい」、ということばがある。わたしがこのことばを知ったのは、中学二年生のころ、松本清張『書道教授』によってであった。当時、この語は漢字でどう書くのだろう、とおもって、辞書をひいた記憶がある。 とりあえず、『鷗外の婢』(新潮文庫1974,…

こわい話、おそろしい話

前の記事で田中貢太郎について述べたが、貢太郎の「竈の中の顔」をここで紹介したことがある。当該箇所を再掲すると、 (注:種村季弘の)『日本怪談集』によって知った一篇に、田中貢太郎の「竈の中の顔」というのがあり、これは文句なしに恐ろしい怪談であ…

田岡嶺雲の文庫版選集

こないだ素見のつもりでUさんとワゴンセールに行ったら、西田勝編『田岡嶺雲選集』(青木文庫1956,以下『選集』)が出ていたので買ってきた。千円也。嶺雲の著作で文庫化されているのは、これと『明治叛臣傳』(こちらも青木文庫)くらいではないかしら。せ…

『棲息分布』のことから

青銅器の邪眼(イーヴル・アイ)にタイトルの着想を得たという松本清張『棲息分布』は、文春文庫の改版で読んだことがある。この小説は、設定のスケールの大きさのわりに、内容はドロドロした男女の愛憎関係に矮小化されているので、そういう意味では、いか…

馮馮翼翼

淮南王・劉安編『淮南子』天文訓巻三には天地開闢の神話が説かれており、そこに「天墜未形馮馮翼翼洞洞灟灟」という箇所がある。これについて高誘*1は、「馮翼洞灟无形之貌」と解する(四部叢刊初編本の『淮南鴻烈解』を参照)。 しかし、金谷治『淮南子の思…

言葉の正しさ?

某所にてお話しした内容の一部を修正して、ここに掲げます(あるかたのご意見を拝聴し、触発されたためです)。 気が向いたときに、つづきの文章も加筆修正のうえ転載します。 - 「言葉の正しさ」は、個人的な尺度(主観)によって判定されがちであるという…

いんね火

中村圭子・三谷薫編『石原豪人 妖怪画集』(復刊ドットコム2012,以下『画集』)は、新刊でながらく鑑賞することがかなわなかった豪人の怪奇画をたくさんみられる貴重な画集である。 このなかには、佐藤有文『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』(立風書房ジャ…

こんなところに獅子文六

ずっと以前、Oの210円均でひろった函入の新井静一郎『ある広告人の日記』(ダヴィッド社1973)。新井静一郎の名にひかれて買ったのだが、読んでみるとやっぱり大正解。めっぽう面白く、十返肇だの斎藤寅次郎だのといった人物が次々に出てくるのがまた楽しい…

S書店での収穫

昨日Uさんから、S書店(実名は出さないが、以下の記述で、お分りになる方もいらっしゃることだろう)に文学関係の本が(いつにもまして)廉価でたくさん出ていることを伺ったので、にわかに気になりはじめ、二か月ぶりくらいで行ってみることにした。目的地…

購書メモ(抄録)

一月某日 F書房から,張延玉等編『駢字類編』(中国書店)十二冊揃および『駢字類編索引』1,700円とどく。美本であるし,これは安い買い物だ。一月某日 ツイン21古本市。Iで清水誠吾『イングリッシ 文法主眼 全』(林竹次郎)500円(近デジにあり),Bで『キ…

雑観

虹の色に対する把握のしかたの違いについて、ここにすこし書いたが、ショナ語、バサ語の話は、たぶん、黒田龍之助『はじめての言語学』(講談社現代新書2004)で読んだことなのであった(pp.76-77)。黒田先生によると、この話は、「グリースン(竹林滋、横…

読む辞典

小学生の漢字辞典―使い方・おぼえかた作者: 斎賀秀夫,野村雅昭出版社/メーカー: 小学館発売日: 1989/04メディア: 単行本 クリック: 7回この商品を含むブログを見る 漢字が嫌いで嫌いで仕方なかった小学四年生のころに、漢字好きとなるきっかけを与えてくれた…

最近読んだ本から

Iの200均に背文字の消えかかった角川文庫があり、よく見たら内藤湖南の『日本文化史研究』だったので、あわてて買った。 『日本文化史研究』は、三たび文庫化されている。一度めは創元文庫版で、これは未見。二度めは、このほど購った内藤虎次郎『日本文化…

辞書の辞書

必要あって、辞書に関する様々の書物を読んでいるのだが、書誌の整理だけで手一杯となるせいか、誤脱がつきものなのは困ったことである。たとえば、杉浦克己『書誌学・古文書学=文字と表記の歴史入門=』(放送大学教育振興会1994)中の「辞書の歴史」――を…

鴎外生誕百五十年

本年もよろしくお願い申し上げます。 - 昨年は「マーラー・イヤー」(グスタフ・マーラー歿後百年)だと騒いでいたのに、今年は、「鷗外・イヤー」、すなわち森鷗外生誕百五十年*1に当る*2。この一月には別冊太陽の鷗外特集号が出るらしいし、二月にはベルリ…