2014-01-01から1年間の記事一覧

雷蔵版・弁天小僧

先日、伊藤大輔『弁天小僧』(1958,大映京都)を観た。脚本もカメラワークもすこぶるよい。脚本は八尋不二で、撮影は宮川一夫。黙阿弥の「青砥稿花紅彩画(あおとぞうし はなのにしきえ)」(「白浪五人男」)を基にした作品である。 冒頭、鯉沼伊織=河津…

『金沢庄三郎』

石川遼子『金沢庄三郎―地と民と語とは相分つべからず』(ミネルヴァ書房2014)をおもしろく読んでいる。「ミネルヴァ日本評伝選」の一冊。ちなみにこの叢書名については、小谷野敦先生が、 一九七五年に、朝日新聞社から「朝日評伝選」というシリーズが出て…

『近代秀歌』のことなど

永田和宏『近代秀歌』(岩波新書2013)に、「啄木の三行書き(短歌―引用者)に影響を与えたのは、土岐善麿であった」(p.118)とあり、善麿の、 りんてん機、今こそ響け。 うれしくも、 東京版に、雪のふりいづ。 という歌が紹介されている。その解説文に云…

「也」の字源説/「呂」の字

「富士崎放江『褻語』」への補足。 『説文解字』が「也」字を女陰の象形と見ていたことについては、前掲の記事でのべた。繰り返しになるが、『褻語』によれば、平賀源内も「也」字を女陰の義で用いたらしい。 しかし、白石和良『取るに足らぬ中国噺』(文春…

日本語の用例拾い

気になることばや表現を見つけると、その場でなるべくメモをとるようにしている。「用例採集」というほど立派なものではない*1。その方法もまことに地味で、だから、遅々として進まない。もう少しスマートにできればよいのだけれど、それができない。 そうい…

『潮の騒ぐを聴け』とウナギ

小川雅魚『潮の騒ぐを聴け』(風媒社)を再読している。この随筆集(註釈部分がなんと全ページ数の約三分の一を占める)は、今年1月に出た。春先に出久根達郎氏が新聞書評で取り上げており、「世間知の宝庫」とか何とか、そういった表現で絶讃していた。それ…

「オットセイ」の語原説

今回は2年のブランクがあったが(通常は約1年間)、高島俊男『お言葉ですが…別巻(6) 司馬さんの見た中国』(連合出版)が出た。5月末に新聞の近刊予告で見かけてから、刊行されるまで心待ちに待っていた。これまでに出た別巻の目次、ならびに索引も附して…

フローベールの「愛書狂」

生田耕作編訳『愛書狂』が平凡社ライブラリーに入った。この版で、ようやくギュスターヴ・フローベールの「愛書狂」(フローベールはこの作品を14歳で書いている)をじっくり読むことができた。数か月前には、紀田順一郎編『書物愛[海外篇]』が「日本篇」…

最近の購書から

4〜5月は、“購書運”に恵まれていたとおもう。個人的にうれしかった「釣果」をえらんで、お目にかけることとする。 4月7日。U書店の古書コーナーで、叢書集成初編本(私の知るものとは判型が異なる)の玄應『一切經音義(一)〜(六)』(商務印書館)6冊2,0…

清張好み(6)

■「二冊の同じ本」(『古書ミステリー倶楽部』光文社文庫ほか) 私は買ってきた「東洋研究史」を開いておどろいた。書込みの字体はまさに塩野氏のものではないか。まさかこの本が塩野氏の所持品とは思わなかった。氏は同じ本を二部持っていて、一部は私にく…

『漢文は本当につまらないのか』

橋本陽介『慶應志木高校ライブ授業 漢文は本当につまらないのか』(祥伝社新書)を面白く読んだ。橋本氏は私と同世代の方。七か国語をマスターされたのだそうで、たとえばアチェベの『崩れゆく絆』(昨年末に邦訳が刊行)を英訳の“Things fall apart”で読ん…

岩本素白/久保天随

素白の随筆については、「岩本素白の随筆」や、「岩本素白の随筆ふたたび」、「文庫本玉手箱・『閑話休題』覚書」で触れたことがある。 素白と云えば、数年前にある場所で、砂子屋(まなごや)書房版*1の『山居俗情』(函入)を見かけた。自由に持ち帰っても…

二冊の文庫版随筆集

この三月、二冊の随筆集――葉室麟『随筆集 柚子は九年で』(文春文庫)と、南木佳士*1『生きてるかい?』(文春文庫)とが出た。カバー袖の著者略歴を見て今さらながら気づいたのだが、葉室氏と南木氏とは同年(昭和二十六=1951年)の生れなのであった。 二…

ふたつの『明解漢和辞典』

谷沢永一『紙つぶて―自作自注最終版』(文藝春秋2005)に、「長沢規矩也は漢籍書誌学の権威で、また引きやすさの工夫を重ねた『明解漢和辞典』(三省堂)等の編者」(p.444,初出は1976.2.25)云々、とある*1。 また、見坊豪紀『ことば さまざまな出会い』(…

『三酔人経綸問答』のスタイル

桑原武夫・島田虔次訳・校注『中江兆民 三酔人経綸問答』(岩波文庫)の現代語訳に、「ところが明白な手本があったのに、よう手本とせず、前の車がひっくり返っているのに、後の車がなんの反省もなく進みました」(p.18。原文はp.125「唯其れ烱然たる鑒戒有…