2015-01-01から1年間の記事一覧

ことば諸々

◆来〇 村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?―紀行文集』(文藝春秋2015)に、 この前『来熊』(らいゆうと読む。熊本の人々はなぜかこの言葉をよく使う。他県の人にはまず読めないだろうに)したのは1967年、僕はまだ十八歳で、高校を出たば…

芥川也寸志の『八つ墓村』、市川崑…

わたしが愛してやまない映画音楽に、芥川也寸志作曲の『八つ墓村』(サントラ盤)がある。これは、野村芳太郎『八つ墓村』(1977松竹)で使用されたものである。 芥川の『八つ墓村』は、まず、映画の前宣伝もかねて12インチのシングル盤(ビクターレコード)…

酒井抱一のことなど

先日、今関天彭著/揖斐高編『江戸詩人評伝集1―詩誌『雅友』抄』(平凡社東洋文庫2015)を読んでいると、次のような記述に行き当った。 この年(寛政七年―引用者)幕府は(柴野)栗山・(尾藤)二洲の建議を入れ、学者にして程朱を奉ぜぬものは進士を許さぬ…

『子規交流』

喜田重行氏の遺著『子規交流』(創風社出版2009)の冒頭に収める「子規と哲学僧」は、晩年の正岡子規の許に届いた書簡が、実は清沢満之(きよざわまんし)からのものではなかったか、と推測したものである。某ネット百科事典にもこの事実は記されているが、2…

ブルった

先日、コロンボ刑事登場第一作のテレビ映画『殺人処方箋』(1968)を見ていると、コロンボ=小池朝雄の科白として、 「腎臓のかたちしたでっかいコーヒーテーブルがでーんとあってね、もう、見るだけでブルっちゃうんです」 というのが出て来た。 「ブルっち…

藤枝静男『田紳有楽』

「東京グラフィティ」8月号の「ヴィレヴァン」特集で、店員たちがおすすめの本を紹介している。広島県の佐藤学氏は、近代文学ベストワンとして藤枝静男『田紳有楽・空気頭』(講談社文芸文庫)を挙げていた。曰く、「すべては自分の中にあって、どこにも何も…

右文説

「右文説(うぶんせつ*1)」は、北宋代に流行した字源説である。「漢字(楷書)には形声文字が多く、また、その構造は左に意符としての偏(へん)、右に声符としての旁(つくり)があるものが多い」が、この「右側、すなわち声符にも意味を求めようとする考…

北村太郎、最後の「煮込みうどん」

(北村太郎が―引用者)入院するちょっと前のこと。朝方血を吐いて病院に行った帰り、材木座の家によってくれた。 前もってわかっていたので、となりの横浜時代からの友人の奥さんが、具だくさんのうどんを鍋一杯につくってくれた。 やっとの思いでたどりつい…

「全然〜ない」の神話

「全然」のあとは打消しの「ない」(や「駄目だ」「違う」などの表現)で必ず結ばなければならない、というのが一種の「迷信」「都市伝説」であったことは、今では、それなりに知られるようになった(これはもちろん、かつて「全然」は、打消しの「ない」と…

「猫舌男爵」、中谷治宇二郎…

一年に大体一冊ずつ出ていた、ミステリー文学資料館編『古書ミステリー倶楽部』シリーズ(光文社文庫)も、とうとう今月出た第三弾で終るらしい*1。最後の三冊めにも、宮部みゆき「のっぽのドロレス」や長谷川卓也「一銭てんぷら」、小沼丹の随筆など、珍し…

後藤朝太郎の「漢和辞典改革」

一昨年、なぜか後藤朝太郎の『支那の体臭』(バジリコ)が突如として復刊されたが、後藤はこのような“ルポルタージュ”を書く以前、もっぱら「言語学者」として知られていた。 銅牛樋口勇夫の『漢字襍話』(郁文舎ほか1910)には、「漢字の言語學的研究に沒頭…

『伊沢蘭軒』を読む人々

先日おもい立って、森鷗外『伊沢蘭軒(いさわらんけん)』(ちくま文庫1996)をふたたび頭から読み始めた。今回は、副読本として斉藤繁『森鷗外『伊沢蘭軒』を読む』(文藝春秋企画出版部2014)*1を座右に備えて熟読している。山崎一穎(2002)「『伊澤蘭軒…

幸田露伴「連環記」

また中公文庫の話から始める。先月の新刊で、辰野隆『忘れ得ぬ人々と谷崎潤一郎』というのが出ている。中公文庫に辰野の著作が入るのはこれが初めてのことのようだ。弟子・渡辺一夫の著作が二十年以上も前にこの文庫に加わっていることを考えると、少し意外…

『やちまた』二度目の文庫化

昨春から、「中公文庫プレミアム」というシリーズが刊行されている。吉田茂『回想十年(三分冊)』や柳宗悦『蒐集物語』などの「改版」も入っているが(「BIBLIO」から移籍したものも含まれる)、北一輝『日本改造法案大綱』や松岡英夫『安政の大獄』など、…

富岡桃華のこと

内藤湖南の自選漢文集『寶左盦文(ほうさあんぶん)』(私家版、大正十二年)所収の「富岡氏藏唐鈔王勃集殘卷跋」(大正十年十二月)に、次のような一節が出て来る。 是歳亡友富岡桃華亦得子安集殘本二卷與上野神田二氏本同出一帙並有興福傳法印蓋東京赤星某…

読書の愉しみ

遅れ馳せながら、本年も宜しくお願い申し上げます。 - 併行して幾冊かの本を読み進めていると、ある特定の物事について知るためにそれぞれの本を手に取ったわけでもないのに、その別々の本で同じ事柄に逢著して驚くことがしばしばある。 もっともそれは、わ…