2016-01-01から1年間の記事一覧

『文章読本』

文章はいっこう巧くならないが、文章読本の類を読むのは以前から好きである。 たとえば、斎藤美奈子『文章読本さん江』は単行本刊行時に(どんな内容であるかも知らずに)飛びついたし、最近でも、岩淵悦太郎編著『悪文―伝わる文章の作法』が文庫版*1で出て…

「鸚鵡石」、あるいは誤植の話など

高橋輝次編著『増補版 誤植読本』(ちくま文庫2013)に「かづの」なる誤植(というか誤記)があることは、以前ここに書いたとおり。同書にはそのほか、堀江敏幸氏の文庫版解説「誤って植えられた種」に句点の重複があったりする(p.294)のだが*1、それはい…

辻邦生『嵯峨野明月記』

「舌」をつかって何かを「見分ける」能力をもった人物といえば、辻邦生『嵯峨野明月記』に出てくる「経師屋の宗二」(紙師宗二)もそうだった。 宗二は何かを見分けようとするとき、紙でも木ぎれでも、かならず舌先でなめてみるのである。まるでその味を吟味…

門井慶喜作品を読む

門井慶喜の作品中の人物たちは、しばしば「舌を出す」。 …隆彦が二度うなずくと、志織はちょっと舌を出し、… (「図書館ではお静かに」『おさがしの本は』光文社文庫2011:50) 「それ以前に就職ですね。私の場合」 郁太は舌を出した。(『小説あります』光文…

文庫本で読む『菜根譚』

宗助は一封の紹介状を懐にして山門を入った。彼はこれを同僚の知人の某から得た。その同僚は役所の往復に、電車の中で洋服の隠袋(かくし)から菜根譚を出して読む男であった。こう云う方面に趣味のない宗助は、固より菜根譚の何物なるかを知らなかった。あ…

「フェスティーナ・レンティ」

先日、尾崎俊介『ホールデンの肖像―ペーパーバックからみるアメリカの読書文化』(新宿書房2014)を読み了えた。「本の本」が好きな向きや、書物そのものが好きな方にもおすすめしたい好著である。 とりわけわたしの気に入ったのは、表題作「ホールデンの肖…

『学芸記者 高原四郎遺稿集』

五年半ほど前のことです。「阿部真之助の本」というエントリを記した際に、書誌学者の森洋介氏が、「阿部部長による東京日日新聞學藝部の黄金時代を偲ぶ」著作の一冊として、非売品の『学芸記者 高原四郎遺稿集』(高原萬里子1988)という本をすすめてくださ…

「爆笑」誤用説

岡本喜八『にっぽん三銃士 おさらば東京の巻』(1972東京映画)という映画のなかで、小林桂樹と岡田裕介との間に次のような会話が交わされる。 岡田 まあ、すさまじきものは宮仕えってことです 小林 すさまじきじゃないよ、すまじきものは宮仕えだよ。それが…

藤枝晃『文字の文化史』/聖徳太子

藤枝晃の『文字の文化史』は、「文字・漢字好きのバイブル」ともされ、これまでに岩波書店の単行本(1971年刊)、岩波同時代ライブラリー版(1991年刊)、講談社学術文庫版(1999年刊)、と何度か形を変えて世に出ている。だが、現在はいずれも絶版もしくは…

「二銭銅貨」「心理試験」のことなど

年明けに「江戸川乱歩「二銭銅貨」と点字とビブリア古書堂」(「くうざん、本を見る」)を拝読しておおいに触発され、このところ、乱歩の初期作品をちびちび再読するなどしていた。 青空文庫版「二銭銅貨」の底本たる光文社文庫版全集本(第一巻『屋根裏の散…

知里真志保『アイヌ語入門』のこと

知里真志保『アイヌ語入門―とくに地名研究者のために―』(北海道出版企画センター)という本がある。判型でいうと、「小B6判」というのだろうか、一般的な新書よりもすこしだけ小さなサイズの本である。同じデザインでかつ同じ判型の本に、『地名アイヌ語小…

岩阪恵子選『木下杢太郎随筆集』

そもそもわたしが、木下杢太郎に関心を抱くようになったのは、平澤一「古本屋列伝」(『書物航游』)によるところが大きい。以前にもその一部を紹介したことがあるが、重複をいとわず引いておこう。 その次に訪ねた時、若林さん*1は折よく店にいた。こちらか…

『松本清張索引辞典』補遺

昨年末、森信勝編『松本清張索引辞典』(日本図書刊行会)という労作が出た。清張ファンの私などにとってはよい手引きになるし、たいへんありがたいことである。 2015.12.22付「毎日新聞」や2016.1.6付「中日新聞」、2016.2.29付「読売新聞」にも記事が出て…

『駿臺雜話』/冨山房百科文庫

前回の記事で引用した室鳩巣『駿臺雜話』は、享保十七(1732)年に成立したものであるが、この(確か)再版本を、四天王寺の古本市だったかで端本で拾ったことがある。しかし廉価だったこともあって虫損がそれなりにひどく、披くたびにパリパリと音がするの…

一鴟/鴟鵂

王楙の『野客叢書』巻第十一「借書一鴟」に、面白いことが書かれている*1。 それによれば、李正文『資暇集』が次のごとく述べているという。 書物の貸借について、俗に「謂借一癡。與二癡。索三癡。還四癡(借るは一癡、與ふるは二癡、索むるは三癡、還すは…

「勉強」

本年も宜しくお願い申し上げます。 - 昨年末、前野直彬の著作を古本と新本とで一冊ずつ購った。古本は『蒲松齢伝』(秋山叢書1976)、新本は文庫化されたばかりの『漢文入門』(ちくま学芸文庫)である。 『蒲松齢伝』は、相田洋『シナに魅せられた人々―シナ…