2022-01-01から1年間の記事一覧

「鮭」字をめぐるはなし

柏木如亭(1763-1819)による「新潟」詩は、如亭の代表作のひとつと看做される七律で、揖斐高訳注『柏木如亭詩集1』(平凡社東洋文庫2017)が採る(pp.143-46)のはもちろんのこと、揖斐高編訳『江戸漢詩選(下)』(岩波文庫2021)にも採録せられているし(…

コリン・ウィルソンが語るアナトール・フランス

学研パブリッシング(当時)が手がけていた文庫レーベルに、「学研M文庫」というのがあった。特に歴史小説や戦史ものを出していたことで知られるが、わたしにとっては、酒井潔『悪魔学大全(1)(2)』、アンソロジスト・東雅夫氏の編纂にかかる「伝奇ノ匣」シリ…

橋川文三「昭和超国家主義の諸相」

ことし生誕百年を迎えた橋川文三(1922-83)の著作を、このところじっくり読む、あるいは読み返すなどしている。ちなみにいうと、「文三」の読みは両様あるようだが、「ぶんぞう」ではなく「ぶんそう」が本来ではないかと思われる。この五月に講談社と丸善ジ…

『小出楢重随筆集』のことなど

かつてわたしは、植村達男『本のある風景』(勁草出版サービスセンター1978)を2冊持っていた。その後――といってももう十五年ほど前の話になるが――、初刷の方は知人に差し上げた。いま手許にあるのは1982年刊の第2刷で、ビニールカバーの下に抹茶色の帯が巻…

『文天祥』『劉裕』文庫化のこと

かつて人物往来社から刊行されていた宮崎市定監修「中国人物叢書」(第一期、全十二巻)の著者名およびタイトルは、それぞれ下記のとおりである(第一回配本は④の宮崎著)。 ①永田英正『項羽』/②狩野直禎『諸葛孔明』/③吉川忠夫『劉裕』/④宮崎市定『隋の…

実録怪談の名手・鈴木鼓村

「怪を語れば怪至る」の典型としてしばしば言及される怪談のひとつに、「田中河内介(たなかかわちのすけ)」というものがある。これは、大正期の或る怪談会で、幕末の勤王派・田中河内介の最期について語ろうとした者が、同じ言葉をくり返したあげく結末を…

復刊された『女と刀』のことなど

四年前に「『女と刀』のことから」というエントリで、中村きい子の『女と刀』を復刊してくれないものか、と書いたことがあるけれど、それが三月にちくま文庫に入ったので、驚き、かつ嬉しく思ったことだった。 ところでこの四年のあいだに、必要あって田宮虎…

『味な旅 舌の旅』所引の『懐風藻』

宇能鴻一郎『味な旅 舌の旅』(中公文庫1980)が、エセー「男の中の男は料理が上手」と、著者と近藤サト氏との対談(「酒と女と歌を愛さぬ者は、生涯馬鹿で終わる」)とを附して、2月に新装復刊された。昨夏に出た宇能氏のオリジナル短篇集『姫君を喰う話』…

「酒池肉林」の話

「酒池肉林」は、日本でも古来親しまれてきた故事である。たとえば『太平記』第三十巻「殷の紂王(ちゅうおう)の事、并太公望の事」には、四字成語の形としては出て来ないが、 (紂王は)また、沙丘に、廻り一千里の苑台を造りて、酒を湛へて池とし、肉を懸…

青春の日記の公刊相次ぐ

昨年10~12月、著名人が十代後半に誌した日記の公刊が相次いだ。心の赴くままぱらぱら捲っていると、それぞれに、十代ならではの煩悶や鬱屈、そして抑えがたい向学心や旺盛な好奇心が垣間見られて面白い。 たとえば田辺聖子は戦時下にあって、事あるごとに「…