昨春から、「中公文庫プレミアム」というシリーズが刊行されている。吉田茂『回想十年(三分冊)』や柳宗悦『蒐集物語』などの「改版」も入っているが(「BIBLIO」から移籍したものも含まれる)、北一輝『日本改造法案大綱』や松岡英夫『安政の大獄』など、新たに文庫化されたものもある。
今月は、このレーベルに、福田恆存『私の英国史』*1などが加わった。これもいずれ購う積りだが、その帯で、来月には足立巻一『やちまた(二分冊)』が出ることを知り、驚くと同時に嬉しくおもった。呉智英氏が解説を担当される由。足立巻一の作品としては、『立川文庫の英雄たち』以来の中公文庫入りではないか。
『やちまた』はここで紹介したことが有るが、現在は、河出書房新社の単行本も朝日文芸文庫版も、新刊では入手できなくなってしまっている(中公文庫版は、「少からぬ補正」を反映した文芸文庫版を底本にするのであろうか)。
書名は、本居春庭『詞八衢(ことばのやちまた)』に由来しており、春庭の秀れた評伝であるとともに自伝的な作品ともなっている。最近では、田中康二『本居宣長―文学と思想の巨人』(中公新書2014)が参考文献として挙げていた(p.237)。
『やちまた』に登場する「拝藤教授」のモデルが、『忘れ得ぬ国文学者たち』(右文書院刊、「憶い出の明治大正」を併録)の著者・伊藤正雄であることはよく知られる。伊藤のこの著作が出たのは1973年であるが、その後新版が刊行されており(解説は坪内祐三氏)、現在も新刊での入手が可能だ。石川遼子『金沢庄三郎』(ミネルヴァ書房2014)が引用していた伊藤の文章も収めてある(pp.319-23)。
足立も一寸出て来るので、以下に引用して置く。
(新村出と―引用者)やや個人的な関係を生じたのは、甲南学園奉職後程なく、昭和二十六年に、『徒然草を語る』という本を著した時からである。この本は、私の戦後最初の著書であったが、単なる国文学的注釈書ではない。戦後の国土荒廃、物資欠乏の嶮しい社会に生きる現代人の心の糧として、たまたま兼好法師六百年忌(昭和二十五年)を機会に、『徒然草』の英知を活用すべき必要を説いた随筆風の評釈であった。昭和元禄の現在から見れば、客観情勢は隔世の感があるが、それだけにかえって今なお自分には愛着の深い著書である。
ところで出版はしたものの、神戸の小さな出版社のこととて、新聞広告などする資力はない。そこで、私の皇学館時代の教え子で、『新大阪新聞』の記者をしていた足立巻一君(現在では関西のジャーナリズムで多彩に活躍しているベテランである)が、「一つ新村先生に書評をお願いして、私の新聞に載せましょう」と知恵を貸してくれた。この足立君の厚意のお蔭で、早速博士から三枚ほどの原稿を頂くことができた。そうしてそれが『新大阪新聞』、および姉妹紙の『新九州新聞』に載ったのである。(この自筆原稿は、新聞掲載後、足立君から贈られて、今私の筐底にある)。(p.175)
徒然草については、ここで書いたことがあり、富士正晴の『書中のつき合い』からも引用した。ちなみに富士と足立とは、「馬」や「苜蓿」といった雑誌で関っていたことが有る。
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