海野十三敗戦日記

午前中に、所用あって出かける。
帰途、Kに立寄る。荒俣宏妖怪大戦争』が、もう文庫化(角川文庫)されている。さすが角川書店。単行本(あるいは新書)発売後、四箇月〜六箇月で文庫化されたものに、宝島社文庫という例がありますが、発売から二箇月で「文庫オチ」したのは初めての事なのではないか。いや、私が知らないだけなのかもしれませんが。
鳥山石燕画図百鬼夜行全画集』(角川文庫)も出ていました。税込で七百円。安い! 安すぎる! 国書刊行会版と違って、さすがに解説や解題は附いていませんが、その十分の一以下の値段で手に入るというのは素晴らしいことです(が、ちょっと口惜しい)。
海野十三 橋本哲男編『海野十三敗戦日記』(中公文庫BIBLIO)を購う。今月のBIBLIOには、高見順『敗戦日記』も入っています。後者は二度目の文庫化。両者とも、これも出たばかりの野坂昭如『「終戦日記」を読む』(NHK出版)*1で取上げられています。
さて、BIBLIO版『海野十三敗戦日記』で読めるのは、昭和二十年の大晦日までなのですが、青空文庫では、「降伏日記(二)」―すなわち昭和二十一年と、二十二年の一部―も読むことができます。そのかわり、BIBLIO版には橋本哲男「愛と哀しみの祖国に」や、長山靖生「解説」*2、「附録 秘密の書斎」*3などが附いています。長山さんの「解説」の一部だけを引用すると、誤解を招きかねないのであえて引用しませんが、たとえば210〜212頁あたりを読んで頂きたいとおもいます。そこに、海野の苦悩や葛藤がみごとに描かれています。また、「解説」中には、昭和二十一年の日記がすこしだけ引用されています。

十二月三十一日(昭和二十年)
ああ昭和二十年! 凶悪な年なりき。言語道断、死中に活を拾い、生中に死に追われ、幾度か転々。或は生ける屍となり、或は又断腸の想いに男泣きに泣く。而も敗戦の実相は未だ展開し尽されしにあらず、更に来るべき年へ延びんとす。生きることの難しさよ!
さりながら、我が途は定まれり。生命ある限りは、科学技術の普及と科学小説の振興に最後の努力を払わん。(p.145)

午後、野村芳太郎『伴淳・森繁の糞尿譚(ふんにょうだん)』(1957,松竹)を最後まで観る。痛快なラスト。感想を書く気力がないので、今日はこれまで。

*1:NHK「人間講座」のテキストを単行本化したもの。

*2:長山さんは、『海野十三戦争小説傑作集』や『明治・大正・昭和 日米架空戦記集成』(いずれも中公文庫)の編者でもあります。

*3:これがまた、おもしろい。