『桜島』

物語戦後文学史 (上) (岩波現代文庫―文芸)
 梅崎春生桜島』が、思っていたよりも面白かったので、「つまみ読み」しかしていなかった本多秋五『物語 戦後文学史(上)』(岩波現代文庫)を取り出して読み直す。これに「梅崎春生のデビュー」という一節がある。
 本多氏は、浅見淵の短評(『物語 戦後文学史』に引かれているのだが、新潮文庫版『桜島・日の果て』の浅見淵「解説」p.246 にも同じような評が載っている)に一定の評価を与えつつも、「とくに出色の批評とはいいがたい」(p.160)と手きびしい。
 集英社日本文学全集版『椎名麟三梅崎春生集』の「作家と作品」も本多氏が書いていて、『桜島』については、「『宿命』をめぐる不思議を、それ以上ふみこんで発展させもせず、何かの観念によって割切りもしない。と同時に、問題をとり逃がしもせず、割切ることでバランスを失いもしない。それが梅崎春生なのだ」(p.425)と評している。
 そうだ、「何かの観念によって割切りもしない」ことに私も惹かれたはずなのであった。
 梅崎の文学がさらに深刻さを増していく過程は、『物語 戦後文学史(下)』(岩波現代文庫)の「梅崎春生のその後の仕事」に詳述されている。