頼まれてくれる

◆「頼まれてくれ(る)」という表現は、こちらに拠ると、泉鏡花の『歌行燈』に出て来るのだそうだ。糸井重里監修『オトナ語の謎。』に言及があることも覚えていなかった(新潮文庫版のp.169に、「かたちとしては質問だが、意味としては命令であるという、じつにオトナっぽい言葉。「はい」と言うしかない」、とある)。
この表現は、近代〜戦前の文学作品では未だお目にかかったことがなく(ごく最近出た本で見かけた記憶はあるのだが――小説ではなかったと思うが――、メモしてはいない)、映画の台詞からは二例拾えた。島耕二『銀座カンカン娘』(1949)の「あ、きみきみ、済まんが頼まれてくれよ」と、豊田四郎千曲川絶唱』(1967)の「頼まれてくれるかい」。後者は北大路欣也の台詞だったと思う。六十年ちかくまえの映画に出て来るのには驚いたものであったが、鏡花の作品にも出て来ることを知ってさらに驚いた。