相米慎二、井上陽水…

◆関西限定の話題だが、「CINEMAだいすき!」(よみうりテレビ日本テレビ系列)の第六十八集は、「相米慎二監督特集」なのであった。
このことは、映画が観られないこの正月にあって、たいへん嬉しく思いがけない出来事であった。無論、数作品はHDRに録画してキープした(『ションベン・ライダー』、『夏の庭』、『風花』など)。
そして、毎度楽しみにしているテーマ曲*1が、井上陽水「帰れない二人」だというのも嬉しかった。いい歌詞だ。もちろん曲も。『GOLDEN BEST』の二枚目ではじめて聴いた曲である。
わたしは、遅れてきた「陽水ファン」なので(両親、とくに母がむかし陽水をよく聴いていたことの影響もあったのだろう)、アルバムも、リアルタイムでは九十年代初頭の『ハンサムボーイ』からしか聴いていない(それ以前に「青空、ひとりきり」*2、この出会いがよかった)。このアルバムはもともと「少年時代」を聴く積もりで聴き始めたのだったが、冒頭に配された「ライバル」の強烈なインパクトと、通常のメロディラインを破壊した「最後のニュース」に衝撃を受けた。またつい最近のことだが、この「最後のニュース」のメロディに乗せて、「二者択一オン・マイ・マインド〜♪」と歌っている若手お笑い藝人を見かけた。コンビ名を「カナリア」という(若い頃のウッディ・アレンに似ている溝黒はかつて「ババリア」というコンビを組んでいた。それは覚えていたのだが、いつの間にか新しいコンビを組んでいた)。ウィキペディアによると、新コンビ名はフットボールアワーの後藤につけてもらったというのだが、もしかすると陽水の「カナリア」に由来するのじゃないかしら(穿ち過ぎかな)。
「積み荷のない船」は、そういえば大沢たかお主演『深夜特急』のエンディング・テーマ曲だった(丁度十年くらい前の話だ)。「Make-up shadow」は、数年前からCMに使用され始め、この頃よく耳にするようになった。これらも全て、『GOLDEN BEST』に入っている。後に出た『GOLDEN BAD』は、実をいうと聴いていない(ジャケは、『GOLDEN BEST』の陽水を白黒反転させた感じになっている)。「My House」なんかは、こちらに入っていたと思う(「海を越えたムラサキ電話」「雪のシロアリは……わからんム!」なんだもの。歌詞が解釈を完全に拒んでいる)。

いかんいかん。調子に乗って、陽水の曲について喋々し過ぎた。話を戻そう。
元日(正確には二日)から始まった「相米慎二監督特集」は、『翔んだカップル』に始まり『風花』に終る――と、相米フィルモグラフィーをそのままなぞる形で七作品を放映する――ということで、たいへんありがたかったのだが、第四十九集に『台風クラブ』が有ったし、第五十集にも『翔んだカップル』が有ったし、第六十集には『夏の庭』と『お引越し』が有ったし、まあ見事に観たことのある作品ばかりなのである(『ションベン・ライダー』もかつて放送されていた気がする)。
第三十一集には『東京上空いらっしゃいませ』も放映されたらしいが、私は第四十七集から観はじめたので、これは「シネマダイスキ」枠で直接には観ていない。だから欲をいえば、こういう作品がラインナップにくわえられていないのは、すこし残念ではある。
しかも先月、日本映画専門チャンネルでは『台風クラブ』が放映されていたし、衛星劇場では『魚影の群れ』が放映されていたし、さらに溯れば先々月あたりに『お引越し』も放映されていたので、さほど目新しい特集ではないのである。
……と思っていたのだが、日本映画専門チャンネル衛星劇場での放送分は、レターボックスサイズで、我が家のテレビには不適合なのである。だから夏目雅子がやたらと胴長短足に見えたりする。
しかし、よみうりテレビはデジタル放送、しかも16:9の劇場オリジナルサイズなので、我が家のテレビ画面ともマッチして、見栄えがいい。観ていてじつに気持ちがいい。『魚影の群れ』は、何度も観ているので、途中からしか録画しなかったのだが、最初から録画しておけばよかったとかなり後悔した(しかも座談会の特典付きなのである。『台風クラブ』は三浦友和のインタヴュー映像つき)。
また今回は放送されなかったが、相米には『ラブホテル』という作品がある。主演の速水典子は「遅れてきた名美」というイメージがどうしても貼り付いていて拭い去り難いのであるが(石井隆の「名美シリーズ」をどう評価するかはこの際おいておくとしても、だ)、それは、『ヌードの夜』『天使のはらわた 赤い閃光』『夜がまた来る』で、準主役(あるいは完全な脇役)の地位に甘んじているからである。彼女は、そこでは「名美」の引き立て役にしかすぎない(特に、『天使のはらわた』での悲壮な最期はひどい)。
荒井晴彦の初監督作品『身も心も』でも、情けない中年男性とともに中年女性を演ずることがなく、かたせ梨乃と永島暎子にその「お株」を奪われてしまっていたのだけれども、緒方明の『饗宴』で奇蹟的な復活を遂げ(脇役ながら主役を喰っていた)、実はこれからの彼女に注目していたりするのである。彼女にはぜひ「情念の女」を演じて欲しいとおもう。

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CINEMAだいすき!」(シネマダイスキ)第六十三集に、テーマ曲として使用されたPYGの名曲。
もっともショーケンとのツインボーカルではないのだけれど…(大好きな大好きな曲。なぜか動画を表示できないので、リンク先のみ示しておく)。
http://www.youtube.com/watch?v=3QIs9-0_8js
なんと、六十八集のOPもあった。

また以下は、第三十五集(1994年放送とか)のOP。この頃は番組の存在自体知らなかった。

オマケ。ブニュエル&ダリの“Un chien andalou”だが、早いうちに観ておかないと消えてしまうかも知れない(刺戟の強い場面があるので要注意)。

*1:テーマ曲のうち、今でもよく憶えているのは、第五十集のTHE BEATLES“ALL YOU NEED IS LOVE”、第五十三集のJOHNNY CYMBAL“A PACK OF LIES”、第五十六集のRed Hot Chili Peppers “CAN'T STOP”、第五十七集のJANE BIRKIN“Je t’aime moi non plus”、第六十三集のPYG“自由に歩いて愛して”あたりだ。第五十六集を観て、つい輸入版のアルバム“By The Way”に手が伸びてしまったのは私だけであろうか。

*2:これはカセットテープで聴いたもの。もちろんリアルタイムではない。「ミス・コンテスト」や「My House」、「とまどうペリカン」「なぜか上海」「クレイジーラブ」「背中まで45分」「心もよう」「招待状のないショー」等が入っていた。