購書日記から

一月某日
 Nで、河西善三郎『漢字を楽しむ』(関西ジャーナル社)600円。昨年はじめに、Hで『漢字に学ぶ』という本を入手したが、その続篇であるらしい。新刊では、山口謡司先生の『漢字』も出ていたが、これはまだ買うかどうかわからない(『ん―日本語最後の謎に挑む』新潮新書は買った。〔参考文献一覧〕に見える書名が、新書ではめったに見かけないものばかり。馬淵(渕)和夫先生の『日本韻学史の研究』とか、築島裕先生の『平安時代訓點本論考』とか。―後日,記ス)。

一月某日
 梅田のNで、正宗敦夫校訂『義經記』(日本古典全集)200円、池波正太郎選『捕物小説名作選』(集英社文庫)150円。後者は、中学生の頃、誰かに貸した記憶があるが、たしか戻って来ていないはずなので。

一月某日
 Hで、森光子『吉原花魁日記―光明に芽ぐむ日』(朝日文庫)20%引。Jで、白倉敬彦『吉原ものがたり―花魁はどこからやって来たのか』(学研M文庫)。前者は、紹介文に「柳原白蓮の序文」(「白蓮する?」で有名だ)云々とあるのに気づかなかったら、うっかり見すごすところだった。大正末に刊行された日記の文庫化。表紙からは、ちょっと想像できない。

吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)

吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)

一月某日
 Fで、北村薫『自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室』(新潮新書)。「ラスカル」が引用されている(pp.165-69)。ポール・オースター編『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』の一篇。これは、単行本刊行時に「週刊ブックレビュー」等で話題になった本で、わたしは文庫(二分冊)になってから、かなり時間をかけて読んだ。「ラスカル」は「鶏」に次いで第二番目の話なのだが、とりわけ印象に残っている話のひとつ。この話に感心された方は多いらしく、たとえば堀部篤史さんも、『本を開いて、あの頃へ』(mile books)*1で紹介している(「こっちへおいでラスカル!」pp.25-30)。

自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室 (新潮新書)

自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室 (新潮新書)

本を開いて、あの頃へ

本を開いて、あの頃へ

一月某日
 『本を開いて、あの頃へ』を読み、ジャック・ドゥミの『天使の入江』を観ると(狂的なジャンヌ・モローが何故かダールの作中人物みたいに見えて来たので)、ずいぶん前に読んだロアルド・ダールを再読したくなり、文庫版の『あなたに似た人』を捜すが見当らない。改版(新装版)の開高健訳『キス・キス』は出て来たのだが(そういえば小林信彦の『地獄の読書録』に、『キス・キス』の書評があった。集英社文庫版pp.160-61)。
 『キス・キス』は「異色作家短篇集」の一冊だが、私の持っているのは七十年代の新装版(その後、一部が改版や文庫版で出た)だから、そもそも月報がついていない。牧眞司『ブックハンターの冒険―古本めぐり』(学陽書房)によれば、新装版になっていないものがシリーズ中に六冊存在するのだそうだ。それはともかく、この月報には、塔晶夫中井英夫)や結城昌治の文章が載っていたという(『くじ』の月報には、小林信彦の文章が載っているのだそうだ。中原弓彦名義で)。
 新装版としてはほかに、マルセル・エイメの『壁抜け男』を所有しているが(梅田のMで、数百円だった『キス・キス』と一緒に買ったのだ)、小林氏は異色作家短篇集のなかでもこの作品がとりわけ異色だと書いていたっけ。
 『あなたに似た人』は、結局、バイト前にHの棚で買った。田村隆一訳のハヤカワ文庫版。最近の版だから、田村隆一のあとがきには、一九九四年の後記がついている(たった一行だが)。
 バイト明け、「味」「おとなしい兇器」「南から来た男」を再読。「おとなしい兇器」は、その後亜流の作品がいろいろ出たし、推理小説クイズの本やドラマでも似たようなのがよく使われた。ダンセイニの「二壜のソース」みたいに、読後、食欲がいちじるしく損なわれる短篇で、「奇妙な味」の「味」は別の味だろう、とでも言ってみたくなる短篇だが、しかし名品である。田村隆一の訳文が、またいい(ちょっと古めかしいところもあるけれど)。
 ポケミス版でこの解説を書いたのが都筑道夫で、これはフリースタイルの全解説集にもちろん収めてあるのだが、なかでほめていたのが「南から来た男」だった。そのくだりは、田村隆一の訳者あとがきにも、少し引用してある。

あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))

あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))

一月某日
 吉田武『オイラーの贈物』、これは私のような根っからの文系人間にも理解できる(といっても、まだ全部は読みこなしていない)本で、ちくま学芸文庫版を持っている(出来れば、高校生のころに読みたかった!)のだが、いつのまにか絶版になっていた。たまたまこの間、アマゾンで見ると、古書価がすごいことになっていて、読書系の掲示板では絶版となった理由についての臆説がまことしやかに語られていた。しかしこのたび、東海大学出版会から復刊された。それによると、なんのことはない、文庫版が売上のノルマを達成したので著者みずから絶版を決めた、のだそうだ。
 来月は、小西甚一の伝説的な参考書が文庫版で復刊されるのだそうで、たのしみだ。

二月某日
 O店頭の均一棚で、滿田巖『昭和風雲録』(新紀元社)、辰野九紫『重役子守唄』(春陽堂)、川端康成『小説の研究』(アテネ新書)各210円を購う。
 『昭和風雲録』はアンカット製本だから、切られてないページもかなりあって、ちょっと難物。でも、欲しかった本でもあるし、しかも210円だから買う。『重役子守唄』は新作ユーモア全集の一冊で、なかなかの掘出し物。帯にも書いてあるが、同シリーズには獅子文六の『青春賣場日記』や、徳川夢聲の『蛞蝓大艦隊』が入っている。

二月某日
 某さんを待つ間、貴重な記事ばかりを集めた溝口敦『昭和梟雄録』(講談社+α文庫)を買って読む。これがめっぽう面白く、その日に『中坊公平・私の事件簿』や、『エンパイア』を一部再読。永野一男、というか豊田商事に関しては、『豊田商事事件とは何だったか』も出ていたが、もう品切れとは……。さっさと買っておけばよかった。文庫化してくれないかな。

昭和梟雄録 (講談社+α文庫)

昭和梟雄録 (講談社+α文庫)


二月某日
 井上梅次の訃報知る。玉置宏の死といい、井上監督の死といい、悲しい出来事がつづく(その後、藤田まこと、ライオネル・ジェフリーズの死に驚かされた―のち記す)。
 いろいろと銷沈することあり。Fに寄ると、ウェッジ文庫が出ていたので、室生犀星『天馬の脚』からまず買うことにした。

天馬の脚 (ウェッジ文庫)

天馬の脚 (ウェッジ文庫)

*1:プガジャ」が「プジャガ」となっている誤植を発見(p.133)。