しばしば挿絵に惹かれて本を買うことがある。江戸期の版本から挿絵を採った小川環樹・武部利男共訳『三國志 通俗演義』(岩波書店)しかり、原田維夫の挿絵の入った陳舜臣『小説 十八史略』(毎日新聞社ミューノベルズ*1)しかり。
ドレ画の『ドン・キホーテ物語』(現代教養文庫)などもそうで、これは岩波文庫に収録された挿絵よりもサイズがずっと大きいから、すっかり気に入って買ったのだった*2。
最近気になっているのが、国書刊行会から出たヤン・シュヴァンクマイエル画の『怪談』(ラフカディオ・ハーン著、平井呈一訳)。
シュヴァンクマイエルといえば高校生の頃、MBS(TBS系)で(「映画へようこそ」だったとおもうが)再三特集が組まれていて、「ジャバウォッキー」だの「闇・光・闇」だの「アリス」だのをたいへん面白く観たものだ。国書刊行会版『怪談』は、そのシュヴァンクマイエルと『怪談』とのいわば「幸福な結婚」なのであるから、これは妖怪好きとしても見過ごせないではないか。
それからもうひとつ気になっているのが、ドゥシャン・カーライ&カミラ夫妻の絵の入った『アンデルセン童話全集(全三冊)』(西村書店)。私のような貧書生にはおいそれとは手の出せない豪華版だが、これは手に取ってみてみたい。
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ところで、私は「アンデルセン童話」が大好きである。小学生のころ、リアルタイムではないが、『ミスター・アンデルセン』や、虫プロダクションの『アンデルセン物語』というアニメも見ていたことがある(リアルタイムでは、小学一年生のころに『グリム名作劇場』というのが日曜の朝にやっていた。こちらも時々見ていた)。
読むほうでは、グリム、イソップに日本昔話と、なんでもござれだったけれど、とりわけアンデルセンが気に入った。岡信子ほか『アンデルセンがいっぱい』(講談社)という大型本を出たばかりのころ(1986年。当時幼稚園の年長だった)に買ってもらい、親に読んでもらったり自分で読んだりした。小学生になってからも何度も何度も読んで、小学五年生のとき手放した(知人に差し上げた)。『雪の女王』や『人魚姫』は、単独のエピソードとして一冊にまとまった絵本や選集本などでも読んだ。前者などはかなり気に入っていて、カイとゲルダの後日譚を自分でこしらえて楽しんだりした。
かなり後になって、アンデルセン童話を岩波文庫版(全七冊)や新潮文庫版(全三冊)で読むようになり(角川文庫版もあるが持っていない)、『アンデルセンがいっぱい』についていろいろと懐かしくおもい出すところがあって、たとえばいささか地味な『そば』という物語でさえ、その挿絵が目に浮かんで来る。よほどおもい入れのある本だったのだろう。
清貧と親和性があるせいか、アンデルセン童話やアンデルセン自身の生涯に魅せられた日本の作家もけっこういて、たとえば水上勉には『あひるの靴』がある*3し、長田弘『詩人であること』の冒頭(「風は物語る」)にもアンデルセン童話のことが書いてある*4。野坂昭如は『マッチ売りの少女』を書いた*5し、水木しげるはそれをいささかグロテスクに漫画化した。それから小山清。小山は『聖アンデルセン』という短篇を書いているし、「アンデルセンによせて」(『幸福論』)という文章も書いている。しかし、私はいずれも未読である。現在新本で手に入る『小さな町』(みすず書房)や『日々の麵麭・風貌』(講談社文芸文庫)にも入っていない。かつては『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)が出ていて、これは平成に入ってから復刊されたのだが、三上延『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』(メディアワークス文庫)の影響もある――、のかどうかは知らないが*6、妙に手に入りにくくなってしまっている。作中に登場する「落穂拾ひ」を読むだけなら、文芸文庫にも入っているので簡単に読めるのだけれど……。
獅子文六を読みはじめる前は、角川文庫に入った『アンデルさんの記』もアンデルセンのエピソードについて書いたものに違いない、と早合点をしていたのだが、これは全く違った(当り前だ)。
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