この一年に観た映画

 前回から一年以上たってしまったので、映画メモをアップしておきます。この順番で観た、というわけでは必ずしもありません。
 気に入った度合を(つまりまったくの主観によりますし、体調に影響されるばあいもあります)、星の数であらわしています(5点満点。★=1点、☆=0.5点)。「*」印は二回以上鑑賞した作品。ちなみに、星をつけ始めたのは、一昨年の記事からです。
(2011年6月〜)
藤武『沙羅乙女 前篇』(1939,東宝)★★★
 原作は獅子文六。「階級対立」というよりも、むしろ「男対女」=「理想対現実」という観点からみたほうがはるかに面白い。徳川夢声藤原釜足が絵に描いたような夢想家で、いかにも現実主義的な千葉早智子がこれに対する。発明好きの清川玉枝だって、実用にそくした発明品しかつくらない。夢声の発明品とはエライ違いなのである。つんけんした感じの江波和子って、江波杏子の実母なのか!

藤武『沙羅乙女 后篇』(1939,東宝)★★
 若かりし頃の北澤彪、なんとなく松田優作に似ている(木村荘十二の『からゆきさん』でも同じことを考えた)。夢声が実験に失敗した後の場面、『あかるみ二十年』でも触れられているとおり、それなりにいいのだが、演出がややくどい。同様に、藤原が千葉に麵麭作りの手ほどきをする場面、この尺であの長さというのもやはりしつこい。すこしだれてしまう。製作主任は本多猪四郎

鈴木英夫『黒い画集 第二話 寒流』(1961,東宝)★★☆
 原作は松本清張平田昭彦の有無をいわせぬ迫力が、あまりに非現実的で、説得的でない展開を強引に押切っている印象がある。平田が、新珠三千代池部良とに向かって、「雑魚寝でもしませんか」と誘う異様さが怖すぎる。サスペンスというよりも、むしろホラーです。小市民的な宮口精二中村伸郎の好演も光る。

神代辰巳『濡れた欲情 ひらけ!チューリップ』(1975,日活)★★★★
 間寛平コミックソングがモティーフ。冒頭、パチンコ玉に擬せられた太陽が大坂城に懸かり、質屋のオヤジ・浜村純の「女ちゅうもんはな…」という台詞が重なる演出からして、一気に引きこまれる。物語としては、パチプロ&クギ師の成長譚、というところに主眼がおかれているのだろうけど、「君が代行進曲」の冗談めかした挿入や、芹明香のあたかも観音様のごとき存在ぶり(それは石井まさみの女体幻想ではあるのだが)等、面白い演出が多々あって、とりわけ、芹ら三人が台車を牽きながら全速力で駆け抜けてゆく長回しのシークェンスには瞠目した。

田中登『(秘)色情めす市場』(1974,日活)★★★★★
 大傑作。こちらも芹明香の魅力が満載だ。彼女の「指歯磨き」で、おおかたの女性幻想はものの見事に粉砕される。モノクロームに映える芹の顔面が細部まで、これでもかとばかりに見せつけられる。母娘の相剋(花柳幻舟が母役)をのり越えたあと、芹は脳性マヒの弟(夢村四郎)とついに結ばれるが、そこでモノクロはカラーとなり、弟は鶏を抱いて通天閣へと向かう。このあたり、さながら『カッコーの巣の上で』のラストを反復するかのよう。弟はしかし首を吊って死んでしまい、「日常」から解放される。芹も日常から脱却するかに見えたが(指名手配写真の男とそっくりな男性がそのメシアとなりそうな予感がある)、画面はふたたびモノクロに戻り、芹は日常にとどまることを決意するのである。
 ラストでスカートの襞をひらひらさせながら舞う芹(この場面二度め)が印象に残る。西成戦争の熱気さめやらぬ頃のあいりん地区をゲリラ撮影した伝説を残した作品で、とにかく終始圧倒されどおし。
 酒井隆史氏の『通天閣―新・日本資本主義発達史』(青土社)も、この作品を写真つきで分析していたはずだが、まだ、ちゃんと読んでいない。

野村孝・後藤秀司『地上最強のカラテ』(1976,三協映画)★★★☆
 梶原一騎大山倍達によって「最強幻想」が広められた(らしい)極真空手だが、いやそれだからこそ、総合挌闘技前夜の異種格闘技戦を、新鮮な気持で眺めることが出来る。ウィリー・ウィリアムス、ウィリアム・オリバー(この選手が52歳の若さでこの世を去ったことは鑑賞後に知った)、ハワード・コリンズ、チャールズ・マーチンのほか、佐藤勝昭東孝、東谷巧などの名選手が次々に登場。劇中のデモンストレーションの迫力もすごい。梶原や大山はもちろん、真樹日佐夫(「サンデー・ジャポン」にも出演していたが、ことし亡くなった)の顔も見える。

加藤文彦『団鬼六SM大全集』(1984,にっかつ)★★
 斜陽期の日活が、『生贄夫人』等の名作から名場面をピックアップし、再編集した作品。谷ナオミ(熊本在住)のほか、デビューしたばかりの(字幕が「デヴュウ」と過剰回帰形になっている)東てる美、それから志麻いづみ、麻吹淳子など。個人的には映写室の神宮寺秋生が気になったが、この人、『夕ぐれ族』にも出ていたのか…。

伊藤大輔『長恨〔デジタル復元版〕』(1926,日活)★★★☆
 伊藤の日活入社第一作。大河内傳次郎主演。ただしのこされているのは、残念ながら最終巻のみ。やはり注目すべきはカット・バックだが、主観ショット、手撮りの緊迫感あるショット、無声映画ならではの字幕の遊び等、面白く感ぜられるポイント多し。短いながらも見ごたえあり。

伊藤大輔『斬人斬馬剣〔デジタル復元版〕』(1929,日活)★★★
 こちらは2002年に発見されたダイジェスト版。月形龍之介主演。〈傾向映画の傑作〉、というクリシエで語られる作品だが、そんな窮屈な観方はせずに、もっと虚心に眺めてみてはどうだろうか。馬上の人のカットが物凄い迫力だ。

ジョン・ウーフェイス/オフ』(1997,米)★☆
 高校生のころ初見、これで四度め。地上波で。二時間枠でまとめるために、いくつかの重要な場面が端折ってある。そのせいで、展開のわかりにくくなっている箇所がちらほら。というわけで減点。本来であれば、もっと高い点数をつけるはず。

辻吉郎『槍供養』(1927,日活太秦)★★
 映画界に入ったばかりの大河内傳次郎が主演。時代劇でありながら立ちまわりがない。だから傾向映画と言われもするのだろう。辻自身、1934年にリメイクしている(こちらはトーキー)し、伊藤大輔も、『下郎』『下郎の首』というタイトルで二度、映画化している。機会があれば、そちらも観てみたい。

大根仁モテキ』(2011,「モテキ」製作委員会)★★★
 スクリーンで。積極的なのは女子ばかりなり。麻生久美子はやはり良いが、長澤まさみのために振られる、という設定が勿体ないし、全く現実的でない。でも、作品全体としてはありきたりで、こういう「ベタ」な展開を、たとえば「ベタ」にクロスカッティングを用いて撮る、というのはやはり勇気の要ることだとおもうし、そのあたりを巧くクリアしている印象は抱いた。

熊井啓忍ぶ川』(1972,東宝)★★★★★
 三度め。はじめてスクリーンで。これは、誰がなんと言おうと、「極私的」恋愛映画なのだ。さらにコマキストになるきっかけを与えてくれた作品でもある。くたびれた女郎連中に加藤剛栗原小巻とが冷やかされる場面、なるほどあれは、“洲崎パラダイス”での出来事だったのだな。前回鑑賞時よりも泣けてきて仕方がない。
 寺田操さんのトークもあわせて拝聴。『雪国』のプロットとの親和性など。

豊田四郎『雪国』(1957,東宝)★★★★
 追悼・池部良。スクリーンで。結末が原作とは大きく異なる。『忍ぶ川』との関連で、さらに面白く観た。鑑賞前に平松洋子氏の「最後の銀幕スタア―池部良賛江」(『野蛮な読書』所収)を読んだこともあって、興味ふかく鑑賞。

キャメロン・マッキントッシュ製作/アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲『オペラ座の怪人 25周年記念公演inロンドン』(2011,英)★★★☆
 スクリーンで。ロイヤル・アルバート・ホールでの記念公演。

田中徳三『悪名』(1961,大映)★★★★
 ずっと以前(中学生頃?)にサンテレビジョンでも観たことがある。原作は今東光勝新太郎の当たり役・朝吉を生んだ名作にして、田宮二郎出世作宮川一夫のカメラワークが良い。たとえば盆踊りの場面や賭場。
 それから、“シルクハットの親分”(永田靖)の顔をなかなか見せない演出が面白い。また、琴糸(水谷良重、のち二代目・水谷八重子)をつれ出すシークェンスが緊迫感に満ちていて良い。圧巻はラスト、麻生イト(浪花千栄子)が海辺で勝新を打ちすえる場面、その後波打ち際で大の字になって、「ワシは勝ったんやで」と絶叫する勝新を引きで捉えるカメラ、こういう画を撮れる宮川はやっぱり凄い。頼りない吉岡親分を演じた、山茶花究の好演にも注目だ。

ジョン・マクティアナンダイ・ハード』(1988,米)★★★★★
 地上波で。こうして改めて観てみると、すこぶる面白い。脚本が細部まで練りに練られていることがよく判る。「ランボー」よろしく不死身の主人公(ブルース・ウィリス)の非現実性を、普通のおじさん、という現実的にすぎるキャラ設定で埋めようとしているかのようでもある。強盗グループの一人を演じたアレクサンドル・ゴドゥノフが夭折していたことは、鑑賞後に知った。

鶴橋康夫源氏物語―千年の謎―』(2011,角川映画=「源氏物語 千年の謎」製作委員会)★☆
 うーーむ。Uさんが、「ホラー映画」という評もあるみたい、と言っていたのがよく分る。六条御息所田中麗奈の生霊が恐ろしすぎて、夢に出て来そうだ。甲本雅裕が、「直截に物を言うは〜」を「チョクサイに〜」と言っていたのが、気になってならなかった。

ブラッド・バード『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011,米)★★★★☆
 バードはアニメ作品の監督としてむしろ有名。その方面の才覚を感じたのは冒頭くらいだったが、作品としてはとにかく面白い。「事故」とごまかすクレムリン、「隕石」とごまかす国防省、といったふうに、異常事態への対処はどの国も五十歩百歩だ、という皮肉もきいている。

仲倉重郎『きつね』(1983,松竹)★★★
 霧プロダクションや野村芳太郎も製作にかかわっている。主演の高橋香織(『プルシアンブルーの肖像』や『あした』の、あの「高橋かおり」ではない)、目に力があって、なかなかの好演。本業が歌手の、岡林信康の大根役者ぶりはご愛嬌。浜村純、山谷初男など、好きな役者がところどころに出ていたのもうれしかった。ある理由によってお蔵入りになりかけていた、いわくつきの映画でもあったが、昨年DVD化され、珍しい作品ではなくなった。

ティーヴ・ベンデラック『Mr.ビーン カンヌで大迷惑!?』(2007,英)★★★☆
 1998年の劇場版第一作よりもよかったと、個人的にはおもう。それまで断片でしかなかった映像の数々がうまく「嵌まる」ラストの展開が楽しい。ロード・ムーヴィあり、映画内映画ありと、映画好きの心を擽る要素も盛りこまれている。

山崎貴ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007,「ALWAYS 続・三丁目の夕日」製作委員会)★★★☆
 酷評もあまたあるのは知っているが、冒頭から怪獣映画へのオマージュが感じられ、嬉しくなる。中弛みがないとは言えないが、後半ふたたび盛り返し、予想できる展開ではありながら、しかし手は抜かない。上川隆也薬師丸ひろ子との日本橋上での再会場面なんて、これはもう、「君の名は」へのオマージュだろう。「昭和三十代幻想」でもかまわない、映画は夢だと確信させてくれる作品だとおもう。

フランソワ・トリュフォー大人は判ってくれない』(1959,仏)★★★★★
 ピエール・レオの出世作。何度観ても良い。そこかしこに映画への愛情が感じられる。隊列から子供たちが抜け出てゆくシーンはジャン・ヴィゴ『新学期・操行ゼロ』のパロディ、レオ扮するアントワーヌが両親とともに観に行く映画がジャック・リヴェット『パリはわれらのもの』だそうで、この場面(だけ)の家族の幸福そうな雰囲気、映画のもたらす昂揚感が実にいい。また、アントワーヌが遊技場の回転ドラムで「無重力」状態となるシークェンスが妙に切ない。ラストの眼差しにも胸をうたれる。
 なお、ジャンヌ・モロージャック・ドゥミの「カメオ」出演あり。

伊藤大輔『忠次旅日記』(1927,日活)★★★☆
 個人のベランダにフィルムが放置されてあったのを復原、さらに当時の染色法にもとづいて色づけしたもの。第二部「信州血笑篇」の一部と、第三部「御用篇」のほぼ全て、という構成。ただし、マキノ正博・久保為義『忠次活殺劔』(1936)などトーキー作品のフッテージが計五箇所に挿入されているとの由。影の使い方、カットバックなど斬新なり。

アルフレッド・ヒッチコック『めまい』(1958,米)★★★★
Arnaud Demuynckほか『脱出』(2007,仏=ベルギー)★★☆
ヤン・シュヴァンクマイエル『闇・光・闇』(1989,チェコ)★★★
波多野貴文SP 野望篇』(2010,フジテレビジョンほか)★★★★
ガイ・リッチーシャーロック・ホームズ』(2009,米)★★★
 薬物中毒の元ボクサー・ホームズにロバート・ダウニーJr.を配したのは、なにか悪い冗談のようだ。が、おもったよりもハマり役。本来はクレバーなワトスンをジュード・ロウが演じており、アクションをこなすのも面白い。
 ただ、アイリーン・アドラーがレイチェル・マクアダムス、というのは、好みもあるのだろうが、あまり感心しない。謎ときが申しわけ程度なのもちょっと残念。

篠田正浩瀬戸内少年野球団』(1984,YOUの会=ヘラルド・エース)★★★★
 玉音放送の「わかりにくさ」を映像化したものといえば、最近では朝ドラの「カーネーション」があったし、映画では『秋津温泉』、パロディ的要素が強いものだと無責任シリーズの『日本一の裏切り男』などがあった。この作品もそうで、もはや定番となりつつある。
 夏目雅子の遺作であり、渡辺謙のデビュー作である。戦後民主主義のもっとも俗悪な部分を島田紳助が体現し、彼のバラマキ政策に対してなすすべもない駒子(夏目)は子供たちに“野球=ベースボールをしましょう”と高らかに宣言する。それがBC級裁判(武女=佐倉しおりの父、波多野提督=伊丹十三が劇中で絞首刑となる)や戦勝国アメリカへの意趣返し、というのが皮肉だ。それこそ、戦後民主主義の面妖さを衝いたものなのだろう。
 映画内映画、初の国産接吻映画として、『はたちの青春』が出て来る(国産の接吻映画については、八年前、ここに書いたことがある)。

ビクトル・エリセミツバチのささやき』(1973,西)★★
 名作とされるが、あまりピンとこなかった。ガーリッシュ映画、とも位置づけられそう。映画内映画の『フランケンシュタイン』が、劇中重要な役割を果たすのだけれども、それはともかく。ストーリーは淡々としている、というよりも淡々としすぎていて、日常の一駒々々がぶつ切りで挿入されているだけのような印象さえうける。
 もっとも、アナとイザベルとの対照はすばらしく、ほとんど全篇が子供の視点で描かれる(だから分りにくいのかもしれない)。スペイン内戦の影響もしばしば論じられるようだ。静謐をたたえながらどことなくタナトスをも孕んでいる作品で、子供の残酷さが純粋さ以上にクロースアップされる。とはいえ、もう少し体調がすぐれているときに、じっくりと再鑑賞したい作品ではあった。

フリオ・メデム『ローマ 愛の部屋』(2010,西)★★★★☆
 日本劇場未公開作品。スペイン女のアルバ(エレナ・アナヤ)と、ロシア女のナスターシャ(ナターシャ・ヤロヴェンコ)との一夜かぎりの行きずりの恋物語。虚々実々のその駆け引きよりも、「居ながらにして」お互いの種姓をさぐりあうためのツールがインターネットや動画であったりするという現在性が興味ふかい。
 また、二人は英語でコミュニケーションをはかるが、アルバはマックス(エンリコ・ロー・ヴェルソ)とはスペイン語で話し、ナターシャは独白や姉との電話ではロシア語を話すし、そしてアルバがつきあっていたエドゥルネ(ナイワ・ニムリ)が動画での出演となるが、彼女はバスク語を話している。それが地球の片隅のイタリア・ローマの、しかも狭い部屋の中で展開される。この、世界の凝縮された感覚が、たまらなく、いい。軽い感動を覚えてしまうほどだ。しかも、その部屋にも趣向が凝らしてあって、絵画のレプリカがふたつ掲げられてあるのだが、そのモティーフに2000年もの隔たりのあることが劇中明らかにされる。そこで出会いや別れの儚さを描いた物語がチマチマと展開されるのである。タイトルから単なるエロ映画と考えてしまってはいけない、とおもう。

川島雄三幕末太陽傳〔デジタル修復版〕』(1957,日活)★★★★★
 これも大好きな映画。落語にくらいわたしでも楽しめる。何度観てもやはり、フランキー堺トリックスターぶりに痺れる。しかし、それがいかにも鈍重な“ブーちゃん”こと市村俊幸(杢兵衛)には全く通用しないのだ。このおかしさ。

テイト・テイラー『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』(2011,米)★★★★
 スクリーンで。心地よい作品だった。あつかっているテーマは深刻なのに、重すぎず軽すぎず。

カール・テオドール・ドライヤー『吸血鬼〔ボローニャ復元版〕』(1932,独=仏)★★★
 ドライヤーというと、すぐに『お葬式』をおもい出してしまう。主人公が棺桶で運ばれてゆく白昼夢の幻想的なシークェンスが見どころだろう。その点では、いま観てもたしかに新鮮な感じをうける。トーキーなのに、文字にたよる部分多し。

アンドリュー・スタントンジョン・カーター』(2012,米)★★
 概して「薄味」の映画だった。突っこみどころも多し。Uさんによると『アバター』のほうがずっと良いとの由、恥ずかしながら『アバター』は未見。いつか観てみないと。

バリー・レヴィンソン『レインマン』(1988,米)★★★☆

富野喜幸藤原良二機動戦士ガンダム』(1981,日本サンライズ)★★★☆
富野喜幸機動戦士ガンダム哀・戦士篇』(1981,日本サンライズ)★★★
富野喜幸機動戦士ガンダム3 めぐりあい宇宙(そら)』(1982,日本サンライズ)★★★☆
 やはりこれは再編集ではなく、レギュラー放送で鑑賞したほうがよかろうとおもった。まあそういう機会はないだろうけど……。
 「スタンバる」(スタンバイする)という表現、中学生のころ塾の講師がしきりに使っていたが、「ガンダム」由来なのだな。一連の映画版でもやたらと出て来る。

和泉聖治『相棒―劇場版2― 警視庁占拠!特命係の一番長い夜』(2010,「相棒―劇場版2―」パートナーズ)★★★★
 小野田官房長(岸部一徳)と右京(水谷豊)との対決の結末はあのラストでなければ収拾がつかなかっただろう、という意見があった。卓見だとおもう。
 小野田こそ、右京の真の相棒だったのではないか、なんてことも、言ってみたくなる。

穂積利昌『この世の花 第一部―慕情の巻』(1955,松竹大船)★★☆
 お約束のクロースアップにげんなりするが、風俗映画として観るとおもしろい。柳永二郎がぴたりと役にハマっている。
穂積利昌『この世の花 第二部「悲恋の巻」第三部「開花の巻」』(1955,松竹大船)★★☆
穂積利昌『続・この世の花 第四部「おもいでの花」第五部「浪花の雨」』(1956,松竹大船)★★★
 第四部からは、都内でのロケが増えて来る。

川島雄三『深夜の市長』(1947,松竹大船)★★☆
 海野十三『深夜の市長』の映画化作品か、とおもったが、まったく違った。乱闘シーンのB級映画ぶり、というか野暮ったさは、今観るとおかしい。安部徹と空あけみとが雨の埠頭をあるく場面、勝鬨橋を渡る場面など、メロドラマ仕立ての展開に印象的な部分がいくつか。ただし、川島らしさはほとんど見うけられない。
 日守新一が、特別出演なのに、冒頭でいきなり殺されてしまう。日守は、好きな役者なのだが、たとえば島津保次郎版『春琴抄』でも、残念なチョイ役だった。
 市長役の月形龍之介は恰好良い。間抜けな大坂志郎との対比が面白い。

鈴木重吉『闇の手品』(1927,本庄映画研究所)★★

木下惠介『野菊の如き君なりき』(1955,松竹)★★★★★
 生誕百年ゆえ再見。木下作品は、感傷に流れるきらいのある作品もあるけれど、これは例外。たとえば田中晋二、有田紀子の山菜採りのロングショット等、息をのむほどすばらしく、いかにも、と云うあざとさが感じられない。脇を固める杉村春子浦辺粂子田村高廣の名演ゆえ、クライマックスが、これでもかという程盛り上がる。名作はやはり名作。何度観ても良い。

トム・ハンクス幸せの教室』(2011,米)★★★
 スクリーンで。トム・ハンクスが15年ぶりでメガフォンをとった作品で、主演も務める。相手がジュリア・ロバーツとなると、90年代のラブコメを想起する。確かに筋は淡泊だが、伏線のある笑いがそこここにちりばめられており、感動作では決してない。細部のほうが気になる作品。

木下惠介『喜びも悲しみも幾歳月』(1957,松竹)★★★★☆
 生誕百年ゆえ再見。これは、壮大なロケーション(観音崎、石狩、女島佐渡、御前埼、安乗崎など)はさることながら、役者の演技にも惜しみない拍手を送りたくなる作品。劇中で、文書を二度読みあげる佐田啓二、そして、戦中・戦後と、海岸の疾走シーンを二度こなす高峰秀子(一度めは伊藤弘子に駆け寄る場面、二度めは息子―中村加津雄!―の遭難を佐田に知らせようとする場面)。両者の老け役ぶりに、乾杯。
 ラスト、日和山燈台の霧の中に消えゆく夫婦二人の後ろ姿がいつまでも印象に残る。

前田陽一『進め! ジャガーズ 敵前上陸』(1968,松竹)★★★
 中原弓彦小林信彦)脚本、というので有名。今となっては、ギャグが空回りしてつまらない点も少なからずあるが、たとえばラスト、内田朝雄の爆死は、『気狂いピエロ』ラストのジャン=ポール・ベルモンドのパロディだし、「ヒガシマル醤油」のうどんつゆがひょんなところに登場する俗っぽさもおもしろい。
 しかし何よりも、三波伸介戸塚睦夫伊東四朗の三人でやっていたころの「てんぷくトリオ」が顔をそろえているのは嬉しいし、ジャガーズ中村晃子、泉アキの歌が聴けるのも楽しい。それから圓楽が、まだ王子様と呼ばれていた頃のことのようで、鼻につくインテリぶりを逆手にとった「ナルシスト警官」として何度か出て来る(ラストのオチもこの人)のがおかしい。
 とはいえ、戦後23年をフォーク・クルセダーズ風の早回しで振り返る歌は、(面白いけれど)お茶らけが過ぎてちょっとしらけるし、間延びしているところも若干ある。

バリー・ソネンフェルドメン・イン・ブラック3』(2012,米)★★☆
 スクリーンで。「御都合主義」ぶりは相変わらずだけれど、ジョーズやカンフーアクションの映画史的記憶をなぞるディテールが楽しい。

武内英樹テルマエ・ロマエ』(2012,「テルマエ・ロマエ」製作委員会)★★★

千野皓司『密約 外務省機密漏洩事件』(1988,S.H.P=テレビ朝日)★★★
 澤地久枝の原作に(ほぼ)忠実。1978年製作のテレビドラマの再編集版。石山記者(西山記者)を北村和夫が、蓮見氏(筈見氏)を吉行和子が演じる。蓮見の旦那役が、なんと堺左千夫

マーク・ウェヴ『アメイジングスパイダーマン』(2012,米)★★★☆
 スクリーンで。リブートだから、スパイダーマンにくらいわたしも安心して観られた。リス・エヴァンスがピーター・パーカーの腕をハッシとつかむ場面、ありゃ『ブレード・ランナー』だ。ラストのリス・エヴァンスはまるで『サイコ』だ。
 Uさんに教えられたが、ステイシー役のエマ・ストーンは『ヘルプ』のスキーターを演じた女優だった。気づかなんだ。

アスガー・レス崖っぷちの男』(2012,米)★★★☆
 スクリーンで。『ザ・ロック』のエド・ハリスがこんなところに! 最初のほうはやや退屈、安直な『MI』の摸倣ぽい潜入場面もあったけれど、総じて脚本が巧くできていて、強引な展開もわりと自然に見せている。

宮崎駿となりのトトロ』(1988,徳間書店)★★★★

クリストファー・ノーランダークナイト ライジング』(2012,米)★★★★
 スクリーンで。色々な意味で、いわくつきの作品。ゴッサムシティが偽りの解放によって恐怖政治の蔓延を招くところはロベスピエールの Terreur を意識しているのだろうし、裁判場面はまるでカフカの『審判』的不条理だ。

増村保造痴人の愛』(1967,大映)★★☆
 昔サンテレビでも観た。短いカットつなぎで時折インサートされる無機質な工場の映像ならびに機械音と、大楠道代(安田道代)の肉体との対比。失礼ながら、大楠の姿態は男たちをそこまで引きつけるほどのものではないとおもうし、コケティッシュな魅力も加賀まりこに及ばない(大楠の魅力は、むしろ歳をとってから増すわけで、80年代にカムバックした鈴木清順作品まで待たねばならない)。また小沢昭一の「痴人」ぶりも、『盲獣』の船越英二に及ばない。けれども、小沢の中年男の悲哀を感じさせる演技は、この作品をむしろブラックコメディとして観るぶんにはしっくり来る。というわけで、原作とは全く違う作品として楽しむべきだろう。

古澤健『アナザー Another』(2012,映画「Another アナザー」製作委員会)★★
 スクリーンで。人が対峙するシークェンスの撮り方など、なぜか妙に凝っているところもあるが、可もなく不可もなく、という感じ。こういう連鎖形式は、『リング』以降、定番となっている。

いまおかしんじ島田陽子に逢いたい』(2010,レジェンド・ピクチャーズ)★★★
 確かに佳品にはちがいないが、大絶讃するほどのものだろうか。しかし、テーマの重さに比して軽やかな作品に仕上がっているのは監督の手腕によるところ大であろう。島田の色々な面が見られるという意味では面白かった。甲本雅裕が負けずにそれに応えているのが、好もしい。

ジャン=ジャック・ベネックス『ディーバ』(1981,仏)★★★★★
 これまた何度めかの鑑賞で、大好きな作品。はじめてスクリーンで。

羽住英一郎『BRAVE HEARTS 海猿』(2012,フジテレビジョンほか)★★★★
 スクリーンで。「御都合主義」等、いろいろと批判もあるが、これはあくまで「映画向き」の作品なのであり、70年代以降の超大作映画の系譜に位置づけなければならないシリーズだとあらためて感じた。

イ・ジョンボム『アジョシ』(2010,韓)★★★★
 テシク役のウォンビンの悲壮感が、なんとも云えない。

ケヴィン・グルタート『ソウ6』(2009,米)★★☆
ケヴィン・グルタート『ソウ ザ・ファイナル』(2010,米)★
 「6」の、ウィリアム・イーストン(ピーター・アウターブリッジ)のゲームは、『ソウ』本来の面白さを幾分かは取り戻すのに成功したかに見えたが、「ファイナル」で全てが台無しになる。ホフマンはジルをあっけなく殺すし、それに単なる殺人マシーンと化してしまうし(隠蔽工作の意味がない)、○○○の再登場はすぐに予想がつくし、冒頭の三角関係清算のゲームなぞ、ゲーム自体の面白さからは遥かに後退してしまっていて、全てが投げやりに作られている感じがする。

ジョス・ウィードン『アベンジャーズ』(2012,米)★★
 スクリーンで。派手な前宣伝に比して、ちょっとこれは……、という印象をうけた。どこかで見たような設定だし、どこかで見たような展開だし、相も変わらず「アメリカ万歳!」といった内容の作品である。確かにつくりが派手な作品ではあるが、期待しすぎたのがよくなかったか。

リドリー・スコット『プロメテウス』(2012,米)★
 疑問だらけ。リドリー・スコットの作品、として観るべきであり、また「エイリアンの前日譚を撮る予定だった」、という前提がなければ、観るべきではないだろう。「人類の起源」、というプロモーターの宣伝に乗せられてしまうと、わたしのように楽しめなくなる。評価は、駄作か傑作かで、はっきりと二分されることだろう。

エリック・トレダノオリヴィエ・ナカシュ最強のふたり』(2012,仏)★★★★★
 スクリーンで。前評判どおりの佳品であった。スラムと大豪邸との対比がさほどあざとくはないし、音楽や見せかたも巧い。

園子温冷たい熱帯魚』(2010,配給:東宝)★★★☆
 Tさんが下さったDVDで鑑賞。スプラッターホラーに見慣れていても、ちょっとたじろぐ場面あり。でんでんの突き抜けた演技がいい。『六月の蛇』の黒沢あすかのエキセントリックな役柄も見どころのひとつか。
 極限状況から生れる家族愛、というテーマがよく分らないが、マーラーの「巨人」第3楽章が延々と流れるのがちょっとおかしい。なおこの作品は、93年の埼玉愛犬家連続殺人事件をモデルとしており、したがって当然ながら後味がわるい。

トニー・ギルロイボーン・レガシー』(2012,米)★★★
 スクリーンで。マッド・デイモンのは一作も観てないが、新生ボーン・レガシーなので、まあ面白く観られた。『アベンジャーズ』のジェレミー・レナーが主演。『ダイ・ハード』ばりの超人感、それから例によって「御都合主義」感が漂うことは否めないが、単に派手なだけでもない。ラストの船上の場面、かなり既視感があるのだけれど、何だっけ……。

伊丹万作/アーノルド・ファンク『新しき土』(1937,日=独)★★★
 スクリーンで。75年ぶりのリバイバル上映。小杉勇愛国者として目覚める「国策映画」なのかとおもいきや、単にそれだけではなく、これはまさしく、当時16歳の原節子のための「アイドル映画」なのである。和装、洋装はもちろん、剣道着、水着などのいわゆるコスプレ(?)を披露する。初登場場面も含めて、伊丹はアイドルの撮り方をよくわかっていたのである。戦前にこのような作品が撮られていたことは驚きである。
 物語の出来はともかくとして、この映画はそういう「アイドル映画」としての観方と、それからファンク流の「山岳映画」としての観方とが楽しめる。しかも、なんと円谷英二の特撮も楽しめる。原の父を演ずる早川雪洲はやや損な役回りだが、英百合子などとともに好演している。