お引越し。


 これから住むところには、歩いて行ける距離に、中規模の新刊書店が二軒、そして、「D」という古本屋が一軒ある。
 この古本屋、なんでも大正年間の創業とかで、地元ではそれなりに知られた書肆であるようだ。ここでの最初の買い物は、高羽五郎の校訂にかかる『譬喩尽 第七巻』(非売)300円、日本古典全集の『倭訓類林 上』800円、結城昌治・選/日本ペンクラブ編『過去のある女―推理アンソロジー』(集英社文庫)100円。正面入りくち向かって左手には、黒っぽい本がずらりと並んでいて、じっくり見てみたいのだが、番台の脇をすり抜けてゆかねばならず、なんとなく入りにくい。店主のご夫人によると、その「本の山」は、しばらく触っていないという。時々見せてくれと言う方がいらっしゃるとのことで、けさも男の人が見ていった、と聞いたので、品物を受け取るときに、勇を鼓して、「今度見せていただいてもいいですか」と訊ねると、どうぞどうぞと言われたので、次に行くのが楽しみである。このところ、人恋しくてたまらないから、こうして話しかけてくれる方がいらっしゃることも、またうれしい。
 ふた駅さきにある「S」という本屋には、こないだ、店頭に朝っぱらから中文書がずらりと出ていたので驚喜した。『金瓶梅』関連書、敦煌変文関連書が格安で多数出ていた。とりあえず、張涌泉『漢語俗字叢考』(中華書局)、潘重規編『瀛涯敦煌韻輯新編・瀛涯敦煌韻輯別録』(文史哲出版社)を確保し、夕方、映画を観終えてからふたたび「S」の前を通りかかると、中文書コーナーが撤去されていたので、おおいに焦った。とはいえ、二冊だけでも確保しておいてよかった、とおもったものである。そのほかには、たしか、『汗簡』註釈書や、羅常培の論文集などが置いてあった。
 さて写真は、本棚として使っている部屋の収納スペースをうつしたもので、「辞書関連本コーナー」の一部である。右のほうに見えるサンキュータツオ『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』(角川学芸出版)は、こちらで購った。その巻末に、「タツオオススメ『辞書関連本』」というガイドがついており、そこで紹介される石山茂利夫氏*1(元読売新聞記者)の著作も五冊並べてある。それから、見坊豪紀(ひでとし)の著作が棚の左半分を占めている。中央にみえる『「広辞苑」物語』は、恩師から頂いたもの。その左にあるのが、(書名が見にくいけれど)『日本における辞典の歴史』(辞典協会)で、これは熊本の「A」で購ったもの。さらにその左にある『三代の辞書』は、退屈男さんから頂いたもの。……と、どの本にもそれぞれ思い出があって、こうして背を眺めているだけで、いろいろなことを考えてしまう。
(ちなみに、「明解系国語辞書」については、ここで書いたことがある。)

*1:故人。石山氏が亡くなられていたことは、『裏読み深読み国語辞書』が文庫化されたさい、その著者プロフィルで知った。