カポーティとリー

夜まで大学。
帰途、トルーマン・カポーティ 川本三郎訳『叶えられた祈り』(新潮文庫)と『大阪人』9月号(特集:続・古本愛)を購う。『叶えられた祈り』の、まずは「文庫版訳者あとがき」(川本三郎)から読む。カポーティの本作品にかける意気込みは、どこかブラームス交響曲づくり(ベートーヴェンの先行作品を意識しすぎた*1)を思わせるものがあるが、ストイックな態度の有無が両者の明暗を分けたのではないか。
さて、その『叶えられた祈り』のうち、「エスクァイア」誌に発表された「ラ・コート・バスク、一九六五」が<ゴシップ小説>になっていて、いわゆる「セレブ」たちを実名で登場させたために、彼らの不興をかったのだそうだ。確かタキの『ハイ・ライフ』も同じく「エスクァイア」に連載されていた作品だっけと、タキ 井上一馬訳『ハイ・ライフ―上流社会をめぐるコラム集』(光文社知恵の森文庫)を取り出して、「訳者あとがき」を見てみる。
正確にいうと、初めタキは「ナショナル・レヴュー」に記事を書くようになり、それから「スペクテイター」「エスクァイア」の順で連載を開始したのだそうで、『ハイ・ライフ』には「スペクテイター」「エスクァイア」から選ばれたコラムが収録されている(因みにいうと、中野翠『ムテッポー文学館』文春文庫pp.238-40にその書評が載っている)。このなかに、「ジャッキー・ケネディ姉妹の生きかた」という印象的なコラムがあって、ジャッキー(ジャクリーン・リー・ブービェ・ケネディ・オナシス)&リー・ラジヴィル姉妹の確執が描かれている。実は、このリーとカポーティは友人関係にあり、そのことは『叶えられた祈り』の「文庫版訳者あとがき」でも言及されているのだけれど(p.295)、『ハイ・ライフ』には次のような面白い話が出て来る。
ハイ・ライフ (知恵の森文庫)

ちょうどジャッキーとオナシスがふたりの結婚でフランスの学生運動の上を行こうと計画していたころ、リーは自己表現の一方法として俳優業を始めることを考えていた。トルーマン・カポーティが相談相手になった。カポーティはリーの舞台デビュー作として『フィラデルフィア物語』を選んでやった。その後、テレビ・デビュー用に『ローラ』のシナリオも書いている。が、両方とも大失敗に終わった。ジャンニ・アニェッリなどは、これはリーを辱しめるテロのやり口だ、奴の性倒錯がリーへの友情を圧倒したのだ、とまで言いきった。(タキ 井上一馬訳『ハイ・ライフ―上流社会をめぐるコラム集』光文社知恵の森文庫,p.133)

*1:ようやく「第一番ハ短調Op.68」が完成したとき、ブラームス不惑をこえていた。苦節二十年。