2023-01-01から1年間の記事一覧

『舞姫タイス』を入手した話

前回、イーヴリン・ウォー/吉田健一=訳『黒いいたずら』(白水Uブックス)のことを話題にしたが、「白水Uブックス」で思い出したことがある。 昨年わたしは、「コリン・ウィルソンが語るアナトール・フランス」というエントリで、「フランスの作品としては…

ウォー『黒いいたずら』復刊のこと

今秋とある新本屋に立寄ったところ、白水Uブックスの創刊40年を記念するフェアが展開されており、そこにイーヴリン・ウォー/吉田健一=訳『黒いいたずら』が出ていたので愕いた。長らく版元品切れとなっていたはずの本であった。 奥付をみると、「1984年11…

あるイソップ寓話のこと

室井光広『おどるでく―猫又伝奇集』(中公文庫2023)は芥川賞を受賞した表題作のほか、「猫又拾遺」「あんにゃ」「かなしがりや」「万葉仮名を論じて『フィネガンズ・ウェイク』に及ぶ」、それから加藤弘一氏による著者インタビュー(1995年)、多和田葉子氏…

続・近松秋江「黒髪」への誘い、4月の中公文庫のこと

前回の記事で紹介した荒川洋治氏の「忘れられる過去」が、4月刊の『文庫の読書』(中公文庫)に入った(pp.24-29)。単行本の『忘れられる過去』、その文庫版の『忘れられる過去』、そして『文学は実学である』(みすず書房2020)にも収められてきたエセーで…

近松秋江「黒髪」への誘い

近松秋江『黑髮 他二篇』(岩波文庫1952*1)は、「黑髮」「狂亂」「霜凍る宵」の三篇を収めている。秋江の作品に初めて触れたのはこの文庫によってであったが――正確にはそれ以前、コラム集『文壇無駄話』(河出文庫1955)を「つまみ読み」したことがある――、…

「ドルジェル伯」と大岡昇平『武蔵野夫人』

レーモン・ラディゲ(1903-23)は、ことし生誕120年、そして歿後100年をむかえた。ラディゲはその短い20年の生涯のうちに、『肉体の悪魔』『ドルジェル伯の舞踏会』の二大傑作をものしたが、特に遺作となった『ドルジェル伯の舞踏会』(以下「ドルジェル伯」…