2017-01-01から1年間の記事一覧
日本で言い慣わされている漢籍由来の故事成句は、漢籍における元々の表現とは異なった形で人口に膾炙している、ということがしばしばある。 例えば、『史記』巻九十二「淮陰侯傳」にみえる「敗軍之將不可以言勇」(敗軍の将は以て勇を言ふべからず)は、日本…
先日、飯間浩明『小説の言葉尻をとらえてみた』(光文社新書2017、以下『言葉尻』)を読んだ。特におもしろく読んだところを抜書きしてみる。 「愛想を振りまく」 先回りして言っておくと、この表現(「愛想を振りまく」―引用者)は誤用ではありません。でも…
再掲だが、ここに、「日本文学全集」第30巻(池澤夏樹個人編集)『日本語のために』(河出書房新社2016)所収の松岡正剛「馬渕和夫『五十音図の話』について」(pp.261-68)から、 問題を五十音図だけに絞っているのも効奏した(p.267) という箇所を引いた…
「デュ・モーリア」というと、ミステリ好きや映画好きは、おそらくダフネ・デュ・モーリアを思い浮かべることだろう。わたしもそのくちで、ヒッチコック作品を経由して彼女を知り、文庫版でいくつかその作品を読んだ。 しかしその祖父、“ジョージ”・デュ・モ…
前回の記事で青木正児(1887-1964)に触れたが、その青木は、櫻井正一郎『京都学派 酔故伝』(京都大学学術出版会2017)pp.346-73でも紹介されている。 櫻井氏は青木を「狷介な隠者」(p.373)と評し、鈴木虎雄(1878-1963)−青木ラインが形づくる系譜を、京…
神吉拓郎の短篇集『二ノ橋 柳亭』が光文社文庫に入った。 この作品集が、『二ノ橋 柳亭』というタイトルで刊行されるのは初めてのことで、かつては『ブラックバス』という題で文春文庫に入っていた。 春先に、大竹聡編『神吉拓郎傑作選1 珠玉の短編』(国書…
後藤明生『首塚の上のアドバルーン』(講談社文芸文庫1999)*1は、「ピラミッドトーク」「黄色い箱」「変化する風景」「『瀧口入道』異聞」「『平家』の首」「分身」「首塚の上のアドバルーン」の七つの中短篇から構成される連作小説集である。 著者が1985年…
「叙述ミステリ」は、「そういう作品である」とあらかじめ聞かされて手に取ることが多い、と以前書いた。むしろそのような前提知識があった方がありがたい場合もあるので、この前Nさんにすすめられて読んだ麻耶雄嵩「こうもり」(『貴族探偵』集英社文庫2013…
先日、北村薫『六の宮の姫君』(創元推理文庫1999)を再読した。 北村薫「円紫さんと私」シリーズ第四作・長篇『六の宮の姫君』は、芥川龍之介の短篇「六の宮の姫君」についての芥川自身の発言の謎をめぐって推理が展開される、いわゆる「ビブリオミステリ」…
原作(深見じゅんのマンガ)は未読ながら、かつてオンタイムで見ていたドラマ『ぽっかぽか』(1〜3,1994-97)が、BS-TBSで再放送されている。「花王・愛の劇場」枠で放送されたいわゆる「昼ドラ」だが、これが何よりも印象的なのは、幼稚園児の田所あすか(…
気持ちよく騙されるのが好きだから、叙述ミステリも好んで読む。『盤上の敵』『十角館の殺人』『ハサミ男』『殺戮にいたる病』『葉桜の季節に君を想うということ』『ロートレック荘事件』「依子の日記」等々。 海外作品だと、最近(昨秋)読んだのが、フレッ…
(大島は)二、三分後には手紙をもったまま車に戻ってきて、 「お客さん、さっき『イシダ』って言ったの? 西田って客なら予約が入っていて、さっき『到着がもっと遅れる』って電話が入ったって。イシダって客はいないと言うから」 と言った。 女はちょっと…
顧頡剛/平岡武夫訳『ある歴史家の生い立ち―古史辨自序―』(岩波文庫1987)に、次のような一節がある。 この時は、ちょうど国内に革新運動が勃発した時であって、学校を開け、纏足を止めよ、鉄道を敷け、米国のシナ労働者禁止条例に抗議せよ、政府に憲法を布…
葉山嘉樹ほか『教科書で読む名作 セメント樽の中の手紙ほか―プロレタリア文学』(ちくま文庫2017)という昨年12月から刊行され始めたシリーズのうちの一冊に、佐多稲子の処女作「キャラメル工場から」が収められている(pp.33-58)。 この作品は、青木文庫や…
第1部第二章で紹介される『五十音和解』という本が気になって、内村和至『異形の念仏行者―もうひとつの日本精神史』(青土社2016)を読みはじめたのだが、誤記が少なくないのは残念なことである。 たとえばp.327の注(17)に「井筒敏彦」とあったり、同じく…
「詩」と云えば、どちらかというと漢詩を思い泛べてしまう様な身であるから、散文詩に対してはあまり昵みがなかったのだけれど、最近、わたしの読書の師匠のひとりKさん(詩人でもある)が、近代から現代にかけての詩人とその作品とをたくさん教えてくださる…
このブログでは個人的な事情をいちいち書き連ねることをなるべく控えているので、詳細は縷々述べないが、昨年12月初旬から三週間強、仕事がほとんど手につかず、本を1ページどころか一字も読めない深刻な状況に陥った。 「本好き」を僭称するようになってか…