2020-01-01から1年間の記事一覧
さる方から、ロバート・バー/田中鼎訳『ヴァルモンの功績』(創元推理文庫2020)を頂いた。バーの作品は、これまで宇野利泰訳の「放心家組合」だけしか読んだことがなかった。宇野訳「放心家組合」は、まず江戸川乱歩編『世界短篇傑作集(一)』(東京創元…
野呂邦暢の「剃刀」を読んで、それに触発されるかたちで再読したのが石川桂郎『剃刀日記』のうち数篇(「蝶」「梅雨明け」など)であったり、また志賀直哉の「剃刀」であったりしたのだが、志賀の「剃刀」は、『焚火―志賀直哉全集 第二巻』(改造文庫1932)…
当ブログでかつて触れたことのある本が、文庫本というあらたな形になって再び生命を吹き込まれ、世に出るのはうれしい*1。 たとえば、日夏耿之介『唐山感情集』(彌生書房1959)は2018年7月に講談社文芸文庫に入った*2。また、岩田宏『渡り歩き』(草思社200…
永井荷風『来訪者』の主要登場人物2人のモデルのうち、白井巍(たかし)のモデルになった平井呈一(1902-76)はいまも読まれる翻訳作品を数多く残しているし、その弟子のひとり荒俣宏氏が語り継いでいることもあってよく知られているものの*1、木場貞(てい…
尾崎一雄作/高橋英夫編『暢気眼鏡・虫のいろいろ 他十三篇』(岩波文庫1998)は、珠玉の尾崎作品をあつめた「精選集」というべき一冊で、再読三読している。編者の高橋英夫による解説も読みごたえがある。高橋氏は昨年亡くなったが、その歿後にまとめられた…
高崎俊夫氏が、今年亡くなった坪内祐三氏との対談*1で、 不思議といえば、トパーズプレスも変な出版社でしたよね。瀬戸川猛資さんの個人出版で「ブックマン」という雑誌も出してた。(『本の雑誌の坪内祐三』本の雑誌社2020:64) と語っていて、そういえば「…
前回の記事で紹介したジェームズ・ケイン/蕗沢忠枝訳『殺人保険』(新潮文庫1962)には、「ぽんつく頭」(p.179)*1など、いわゆる俗語の類がしばしば登場するので、そのような点でも興味深い。次のごとく言語遊戯めいた文章もある。 どいつもこいつも、セ…
先日、ビリー・ワイルダー『深夜の告白』(1944米,″Double Indemnity″)がBSPで放送されていたので、綺麗な映像で観直してみた。「フィルム・ノワール」の先駆的作品、「保険金殺人もの」の嚆矢、などと云われたりする作品だが、まずは配役がいい。 後年の…
かつて、某首相が「未曾有」を「ミゾーユ」と読んで*1話題になったことがあった。当時は、「『未曾有』は『ミゾウ』と読むのが正しくて『ミゾーユー』は間違いだ」という批判に止まるのがせいぜいで、「未曾有」が歴史的にどう読まれてきたかということは殆…
「三田文学」連載の対談をまとめた、石原慎太郎・坂本忠雄『昔は面白かったな――回想の文壇交友録』(新潮新書2019)を昨年末に読んでいたところ、次のような箇所が目にとまった。 坂本 (略)文六さんって人は、「牡丹」っていう絶筆を書いてね。 石原 読ん…
藤原宰太郎*1氏(1932-2019)は、ミステリの面白さを教えてくれた点において恩人のひとりだといえる。 巷では、藤原氏の著作群が古典的名作トリックのひどい「ネタばらし」の宝庫になっていたというので、「罪」の部分がクロースアップされることもしばしば…
『寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか――渡辺一夫随筆集』(三田産業2019)という本がある。これには、標題の「寛容(トレランス)は自らを守るために不寛容(アントレランス)に対して不寛容(アントレラン)になるべきか」(pp.110-30…
池谷伊佐夫『書物の達人』(東京書籍2000)で紹介されている本の一冊に、正宗白鳥『読書雑記』(角川文庫1954)がある。これについて池谷氏は、「初出がはっきりしないので、元版がいつどういう形ででたのか不明だが、わずか百六十頁ほどの薄い文庫本の四分…