2010-01-01から1年間の記事一覧

今年の収穫と久生十蘭

諸事が一段落しつつあるので小休止。といっても、まだ、一月中旬までに済ませなければならない用事を幾つか抱えている。 - さて今年の収穫本のうち、入手することができて嬉しかったもの十点を披露する(頂きものは除く)。蔵書自慢ならぬ「購書自慢」、とい…

「アキハバラ」

先日、「秋葉原=あきはばら」(という名称)について考えることがあった。するとその後ツイッター上で、偶然それに関する議論を見かけた。 「あきはばら」は、「秋葉(あきば)権現=秋葉(あきば)神社」が基となっているはずだから、もともとは「あきばは…

日記から

日記を読み返してみて、今年は訃報つづきだったな、とおもう。たまたまなのかもしれないが、訃報ばかり記していたような記憶がある。一月十五日(金)には「双葉十三郎の訃。享年九十九」と記し、翌十六日には「元巨人・阪神エースの小林繁さんの訃。享年五…

五年前のレポート

今週号の「週刊新潮」で、渡部昇一氏の「書痴魂」が炸裂している(pp.143-45)。漱石「猫」の初版本、『種の起源』の初版本、自動空調の書斎、ロスチャイルド一族の訪問……。確かにすごいとはおもうのだけれど、自分にはまったく縁のない世界だな、と考える。…

由らしむべし知らしむべからず

萩原健一『日本映画[監督・俳優]論―黒澤明、神代辰巳、そして多くの名監督・名優たちの素顔』(ワニブックス【PLUS】新書)は、著者というかインタヴュイー自身もテレビで宣伝しており、裏話満載でおもしろく読めた。p.164に「ホーキンスなんかが言うんだ…

黒岩さんの訃

もう先月のことになるが、新宿古書展で、木下杢太郎訳『支那傳説集』(座右寶刊行會,1940)を買った。これは改訂版というべきもので、その約二十年前に元版が精華書院からでている。「世界少年文學名作集」というシリーズの一冊として(第十八巻)である。 …

得たりや応!

「得たり応」「得たりや応」という表記が定着した、というかよく見られるようになったのは、一体いつ頃からだろうか。この表記について指摘している人はどれくらいあるだろうか。 これは辞書の見出し語とは乖離がある表記で、国語辞書は軒並み「得たりおう」…

『字考正誤』という本

天保年間に出た鈴木牧之『北越雪譜』第二篇四之巻「蛾眉山下橋柱」に、「明人黄元立が字考正誤、清人顧炎武が亭林遺書中に在る金石文字記あるひは碑文摘奇…」(岩波文庫版を参照)というくだりがみえるが、その「黄元立が『字考正誤』」という記述は正確では…

前回スクラップブックについて書いたので。

スクラップ術を説いた随一の書といえば、三國一朗『鋏と糊』(自由現代社,1981)であろう。 これは、もともとみゆき書房が『ハサミとのり(私の切りぬき帖)』というタイトルで刊行したもの(1970刊)であるが、「東京オリンピック」と題する章が省かれてい…

一昔まえの日本語ブーム

私のスクラップ・ブックはたいそう貧弱で、切り抜いた記事をしかるべきところに挟みこんで、それで満足している(貼りつけてすらいない)。 そんな貧弱なものとはいえ、十年前の記事などを読み返していると、実におもしろい。 - 平成十二年年頭は、小渕首相…

味合う

このあいだ『忍ぶ川』のことを書いた。その新潮文庫版が、「新潮文庫20世紀の100冊」に選ばれたということも書いた。これらの「解説」は、すべて関川夏央氏が担当しており、「20世紀の100冊」の特別カバー*1に印刷されていた。 この解説は、のち関川夏央『新…

追悼・三浦哲郎

三浦哲郎が亡くなった。享年七十九。『忍ぶ川』は、熊井啓監督の映画を観てから、三浦氏の原作を読んだ。だから、作中人物の声が、栗原小巻の、あるいは加藤剛の声とだぶって聞こえ、そのイメージからついに逃れられなくなってしまったのだが、それは映画が…

待てば海路の

あの伝説の二畳庵主人(実は加地伸行先生)著『漢文法基礎』(増進会出版社)が復刊されるようだ。某掲示板で知った。 「復刊ドットコム」では三百票以上集めていて、オークションやアマゾンのマーケットプレイスでも数万円の値がつくほど人気があり、「幻の…

典拠のある妖怪・ない妖怪

いま神戸の兵庫県立美術館で、「水木しげる妖怪図鑑」がやっている。松屋銀座で開催中の「ゲゲゲ展」*1に展示されている妖怪画(磯女、一目連、海月の火の玉、児啼き爺、すねこすり、セコ、遺念火、細手、夜行さん等々)とあわせると、かなりの数の妖怪画が…

渋谷大古本市

某ワークショップ*1等に参加するため上京。ついでに、「東急東横店渋谷大古本市」にも行ってきた。大阪の古書会館で目録を貰っていたので、すこし気になっていた。 初日、しかも開店と同時に入った。関西の古本市でも、開店時に入ったことはなかったので、そ…

中村伸郎の随筆集

某所からの帰途、Rの店頭均一(200円棚)を覗くと、中村伸郎の随筆集二冊が目にとまった。 『おれのことなら放つといて』、『永くもがなの酒びたり』(ともに早川書房刊)の二冊。前者は遅まきながらの処女随筆集(1986年刊)、後者は遺稿集(1991年刊)であ…

購書日記など。

きょうは松本清張の亡くなった日。私は清張作品が大好きで、「清張好み」という変なエントリを数本書いている。 清張好み(1)http://d.hatena.ne.jp/higonosuke/20090203 清張好み(2)http://d.hatena.ne.jp/higonosuke/20090209 清張好み(3)http://d.ha…

三上読書

春城市島謙吉に「読書八境」(『春城筆語』所収)という文章がある。『日本の名随筆36 読』(作品社)にも収められたそうだが、現在は青空文庫でも読める。そこで春城は、「境に依り書味の異なるもの」、つまり書を読むにふさわしく、なおかつ気味の異なる環…

蝸牛忌

今日は蝸牛忌*1なので(奇しくも、谷崎潤一郎の忌日がおなじ)、寺田透編『露伴随筆集(上)(下)』(岩波文庫,1993)が「お供本」だった。この本は、高島俊男先生が『本と中国と日本人と』(ちくま文庫)で「それはそれはひどいもの」と(編纂方針を)手…

東京での購書

実はいま、ある用事のため東京にいる。本日午後に帰阪する予定なので、またしても、みちくさ市に立寄れず残念無念(外市にも行けなかった)。八月上旬にも東京に出る予定があるのだけれど、主だった古書市とは日程が重ならないので*1、それも残念。 だが時間…

H.G.ウェルズの本

今月、光文社古典新訳文庫に、H.G.ウェルズの短篇集『盗まれた細菌/初めての飛行機』(南條竹則訳)が入った。 ウェルズというと、『タイムマシン』や『モロー博士の島』でよく知られている。また『宇宙戦争』は、オーソン・ウェルズによるラジオドラマの放…

岩波文庫でよむ柳多留

“岩波文庫 夏の一括重版”が本屋に出ていた。今回のラインアップには、山澤英雄校訂『誹諧武玉川』(全四冊)も入っている。品切になる前に買いそろえておきたいものだ。 さて、『武玉川』(慶紀逸選句)の編纂方針――つまり、前句を省いても句意のとりやすい…

『雨の日はソファで散歩』の文庫入り

かつて朝日新聞の文化面に、「○○は終わらない」という記事が連載されていた。タイトルは、プリーモ・レーヴィの『アウシュヴィッツは終わらない』に由来するのか、都井邦彦の『遊びの時間は終らない』*1に由来するのか、はたまた別の何かに由来するのか知ら…

日夏耿之介『唐山感情集』

柏木如亭 揖斐高校注『訳注聯珠詩格』(岩波文庫,2008)に記された校注者の余説は、『三体詩』が収録した詩については森川許六『和訓三体詩』を、『唐詩選』が収録した詩については服部南郭『唐詩選国字解』を引いているので、それだけでも読んで面白い。こ…

怪談牡丹燈籠

福岡隆『活字にならなかった話―速記五十年』(筑摩書房,1980)には「江戸言葉との格闘」という章があって、落語速記の労苦について書かれている。その話題は、八代目桂文楽個人全集(立風書房刊)の製作秘話が中心となっており、たとえばポーズフィラーの「…

春雨物語

以前、「漆山本春雨物語のこと」という駄文をものしたことがある。その後、小林勇の初めての随筆集『遠いあし音』(文藝春秋新社,1955)に収められた「漆山又四郎」(「編集者の囘想録」)を読んだ。ここには、『蝸牛庵訪問記』(講談社文芸文庫)では描か…

中野重治のことば談義

「させていただく」という表現に不快感を表明した文章を探してみると、あるわあるわ、かなり見つかった。 意外なところでは、中野重治の言がある。 中野 例えばだれかが死にますね。そこへ香奠を送るでしょう。いろんな場合がありますが、どうもありがとう、…

「桐一葉」というと、これは季語としても有名で、加藤郁乎『江戸俳諧歳時記(下)』(平凡社ライブラリー)「桐一葉」の項に、 『淮南子』ほかに出る「一葉落ちて天下の秋を知る」の一葉は梧桐(あおぎり)の葉。『滑稽雑談』に、「御傘云、一葉ちるに桐、柳…

七十四年ぶりの新版

小説神髄 (岩波文庫)作者: 坪内逍遥出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2010/06/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 19回この商品を含むブログ (11件) を見る 坪内逍遥『小説神髄』(岩波文庫)が、74年ぶりに改版された。逍遥の『當世書生氣質』(岩波文庫…

この半年に観た映画の記録

(2009年12月23日〜) *印を附したのは、複数回観たことのある作品。今回から、気に入った度合を星の数で表すことにしました(5点満点。★が1点、☆は0.5点)。ただしこれは、あくまで私の気に入ったか否かを示したにすぎないので、作品の優劣にはあまり関係…