以前、「漆山本春雨物語のこと」という駄文をものしたことがある。その後、小林勇の初めての随筆集『遠いあし音』(文藝春秋新社,1955)に収められた「漆山又四郎」(「編集者の囘想録」)を読んだ。ここには、『蝸牛庵訪問記』(講談社文芸文庫)では描かれなかった露伴の死後のことが書かれている。それによると、「すでに十五分前に去った先生(幸田露伴のこと―引用者)の前に頭を垂れた漆山の姿は、人間がひとりの尊敬して來た人にこの世で別れるのはこんなものか、とそこに居合せた人々に思わせるものがあった」(p.185)、という。
さて、そのときは知る由もなかったのだが、先月下旬、井上泰至訳注『春雨物語現代語訳付き』(角川ソフィア文庫)が刊行された。これにはもちろん「捨石丸」も「樊噲」も収録されており、「解説」(井上泰至)には漆山本からの引用がある(p.299)。全十篇を現代語訳つきで収録した文庫本の刊行は、初めてのことであるらしい。なお「解説」によるとその校注本文は、従来と同じく、富岡本・天理巻子本(自筆本)が残るものはそれに依拠し、残らないものは文化五年本で補い、「宮木が塚」「樊噲」の二篇は両者を混合させる方針を採ったという。
さらに、今月刊行された「幽」第13号の第二特集が、「二百一年目の上田秋成」なのであった。先の井上氏の「解説」では、村上春樹『海辺のカフカ』が『雨月物語』所収の二篇(「菊花の約」「貧福論」)に触れたことに言及しているだけだが(pp.300-01)、「幽」所収の高田衛論文「秋成の復活―ポストポストモダン*1としての『雨月物語』」では、当該箇所からの引用がなされている。『海辺のカフカ』は単行本刊行時に読んだというのに、全然おぼえていなかった。小説は、一度読了しても、こういうときにすばやく確認できるので、なるべく手許に置いておくことにしている。
そういえば、小森収編『都筑道夫の読ホリデイ 上巻』(フリースタイル)に、
『推理作家の出来るまで』のころも、上田秋成『春雨物語』のなかの「樊噲」の問題で、落着かなくなったことを書いた。あれもまだ、よくわからないのに、またこんな問題が発生して、ますます頭の調子がよろしくない。(pp.29-30,1989.4)
とあるのが気になっていたのだが、まだ『推理作家の出来るまで』の内容を確かめずにいたのだった!
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歿後201年目だが、「[特別展観]没後200年記念 上田秋成」にも行ってみたい。
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