待てば海路の

 あの伝説の二畳庵主人(実は加地伸行先生)著『漢文法基礎』(増進会出版社)が復刊されるようだ。某掲示板で知った。
 「復刊ドットコム」では三百票以上集めていて、オークションやアマゾンのマーケットプレイスでも数万円の値がつくほど人気があり、「幻の名著」とさえいわれた本だが、ここによれば、十月に学術文庫版で刊行されるとの由。ただ、中身の改変があるかどうか、旧版(新訂版にはないという)巻末の「ポルノ漢文」は収録されるのかどうか(たぶんされない)、気になるところではある。
 気長に待てばこういうこともある。
 一昨年のちょうど今ごろであったか、小林信彦編『横溝正史読本』(角川文庫)の改訂版が刊行され、狂喜したということもあった。それまでは、ブックオフや店頭均一で拾った、という話を聞くたびに、羨ましくおもっていたものである。
 その後、ネットでは一斉に値崩れして、旧版(カバー違いが2種ある)を50円で売るところまで出た。
 売り手からすると、残念なことにはちがいないが、買うほうにとっては、これほど嬉しいことはない。
 しかし買い手でも、大枚をはたいて入手したあとに復刊されることを知ったのなら、これまた悔しい話である。
 数年前、早稲田のSで、初刷の伊藤東涯『制度通(上下)』(岩波文庫)200円を拾ったことがある。領収証が挟みこまれていて、だれかが三十年ほど前に10,000円でこれを買ったことが知れたのだが、二十年ほど前に復刊され、つい五、六年前の復刊ラインナップにも入ったので、これも店頭均一などでよく見かけるようになった。高値で買った人は、さぞや悔しいおもいをしたことだろう。
 最近、小谷野先生が、ゴンチャロフの『断崖』が岩波文庫で復刊されることについて書いておられたが、こちらも高値で知られる文庫だった。今度出るのは新訳なのだろうが*1、『オブローモフ』、先月に完結した『平凡物語』とあわせて、新本屋に「三部作」がお目見えすることになる。
 岩波文庫は、いつ復刊されるかわからないので、まさに、「古本屋泣かせ」である。

*1:と書いたが、井上満訳のままの新装復刊であるらしい。昨年復刊されたリチャード・ライト野崎孝訳『ブラック・ボーイ』のようなものか。