2010-01-01から1年間の記事一覧

言葉のエッセイ、黒澤明生誕百年…

呉智英『言葉の煎じ薬』(双葉社)を読んでいる。呉氏のことばに関する著作は、『言葉につける薬』、『ロゴスの名はロゴス』*1、『言葉の常備薬』に続いて四冊めということになろうか。『ロゴスの名はロゴス』以降にさしえを担当していた中野豪氏が亡くなっ…

明解系国語辞書のこと

めったに引かない『三省堂国語辞典〔初版〕』を、ひさしぶりで開いてみたので、飯間浩明先生の「『三省堂国語辞典』のすすめ」(現在の記事名は「国語辞典入門」)や、柴田武監修・武藤康史編『明解物語』(三省堂2001)の「「明解」系国語辞書六十年小史」…

平山夢明『いま、殺りにゆきます』が、書下し三篇を加えてふたたび文庫化された(『恐怖実話集 いま、殺りにゆきます RE-DUX』光文社文庫)。「恐怖実話集」とあるけれども、ここに収められているのはいわゆる心霊譚ではない。たとえば、平山氏の『実録怪談…

『隣の八重ちゃん』のことば

衛星劇場が、松竹映画特集や斎藤寅次郎特集の放送を開始したので、嬉々として録画にいそしんでいる。島津保次郎の『隣の八重ちゃん』*1(1934,松竹蒲田)も、これでようやくはじめから観ることができた。クレジットタイトルによると、助監督を豊田四郎や吉…

『徒然草』

「臨場」(第2シーズン)第9話を見ていたら、卜部兼好『徒然草』を愛読するホームレスの中年男性(斎藤洋介)が登場した。文庫版のものがちらと映ったが、最近出た島内裕子校訂・訳『徒然草』(ちくま学芸文庫)よりもずっと厚かった。表紙には校注者名(?…

結城昌治のショートショート

ショートショートの世界 (集英社新書)作者: 高井信出版社/メーカー: 集英社発売日: 2005/09/16メディア: 新書購入: 1人 クリック: 56回この商品を含むブログ (18件) を見る ブックオフでひろった高井信『ショートショートの世界』(集英社新書)は、ショート…

購書・映画鑑賞記録抄

漢文スタイル作者: 齋藤希史出版社/メーカー: 羽鳥書店発売日: 2010/04/13メディア: 単行本 クリック: 32回この商品を含むブログ (10件) を見る とりわけ、「晴耕雨読」「緑陰読書」について書かれた章をおもしろく読んだ。 pp.123-31に湯川秀樹の話。これも…

人生劇場

古典は読まれざる名作である、ということを最初に言ったのは誰だろうか。マーク・トウェインが、「古典/みんな/ほめる/だけで/読みは/しない/ご本」(大久保博編訳『ちょっと面白い話』旺文社文庫,p.6)と書いており*1、これなどはその古い例かとおもわれる…

「あらかわそうべえ(そうべい)」のかな表記は幾通りあるのだろうか、と以前からちょっと気になっていたが、そういえば『外來語辭典』(弘文堂アテネ文庫)は「あらかわ そおべい」であった。(http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20100502/p2参照) 惣郷…

清張好み(5)

■『梅雨と西洋風呂』(文春文庫ほか) ああ、何という陰気な風呂だと、四角い木製風呂の中に浸って義介はあたりを眺めまわした。小窓のガラスに蒼白い朝の光が映っている。それでも昔ふうなこの浴室は夜のように暗い。柱は太く、煤けている。無神経そのもの…

二十にして心已に朽ちたり

「離騒」につづいて、「庚寅ネタ」(?)をひとつ。鬼才・李賀(長吉)の「長安有男児 二十心已朽(長安に男児有り 二十にして心已に朽ちたり)」(贈陳商)という一節は、賀みずから身の不遇をかこったものであり、しばしば引用されるから、よく知られると…

四月某日 朝、岡本喜八『独立愚連隊西へ』(1960,東宝)を観た。軍旗の争奪に汲々とする軍人たちのおかしさを、畳みかけるようなストーリー展開でこれでもかとばかりに見せつけられる。加山雄三を主演に据えた結果なのか、佐藤允のアクの強さがあまりいかさ…

最近の収穫

秦豊吉『わが粋筆』(美和書院)350円。「小序」に、ペンネーム「丸木砂土」の由来について書いてある。秦といえば、徳川夢声『いろは交友録』(ネット武蔵野)に収められているし、池内紀『二列目の人生―隠れた異才たち』(集英社文庫←晶文社)にも登場する…

重箱の隅―漢字の話題

言葉を歩く―漢字・日本語・固有名詞作者: 坂田卓雄出版社/メーカー: 海鳥社発売日: 2010/04メディア: 単行本 クリック: 41回この商品を含むブログ (2件) を見る p.13に、いきなり「群馬県の八ツ葉ダム」という誤記がある(しかも何度も)。「ツ」も小書きで…

昨年は「ダーウィン・イヤー」であった。すなわちチャールズ・ダーウィンの生誕二百年にあたり、また、『種の起源』出版百五十年にあたる年でもあった。 このことに関しては、たとえば三中信宏『分類思考の世界―なぜヒトは万物を「種」に分けるのか』(講談…

わたしはビールの泡である。

「読売新聞」(4月4日付)の「読書情報」に、このほど文庫化された高村薫の『レディ・ジョーカー』(全三巻、新潮文庫)が写真つきで紹介されていて、「大きな書名が3巻にまたがる装丁(『永遠の仔』などの多田和博)は平積みの台でも一際目をひく。2巻物…

今野えんすけ(1914-82)。その名の漢字表記が、「圓輔」であるべきか「圓助」であるべきか、未だによくわからない*1。教養文庫(少なくとも手許の四冊)は「圓輔」だが、論文データベースでは「円助」ないし「圓助」も出て来る。但し、同じ論文でも、「圓輔…

「NNNドキュメント」(日本テレビ系)に、「くすみ書房」が登場。かの有名な「なぜだ!? 売れない文庫フェア」にちくま・ちくま学芸文庫が並べられていた。『婦人家庭百科辞典』(もう品切重版未定になっている)や『文化防衛論』はともかく、『大正時代の…

白川静読本作者: 五木寛之,松岡正剛,宮城谷昌光,立花隆,内田樹,町田康,押井守,平凡社出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2010/03/19メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 27回この商品を含むブログ (21件) を見る へえ、あの方やこの方も白川先生について書いて…

註釈の義で用いる「註」、「注」の用字の問題については、ここにも書いたが、円城塔さんの『烏有此譚』(講談社)の脚注部(この部分は書下しだそうだ)でも触れられていた。 また、最近入手した近藤杢『支那學藝大辭彙』(立命館出版部,1943)に「自注」の…

アーウー宰相、鈍牛宰相

大平正芳の生誕百年を迎えて、朝日新聞は「天声人語」(12日付)が、読売新聞は「五郎ワールド」(13日付)がそれぞれ大平をテーマにしていた。特に後者は、辻井喬の新刊『茜色の空』(文藝春秋)にも触れている。 約三十年前の「天声人語」は、大平内閣不信…

日記から

二月某日 善行堂から『sumus』第13号とどく。午後、成瀬巳喜男『妻よ薔薇のやうに』(1935)観る。三度目であろうか。千葉早智子と大川平八郎、千葉と英百合子など、ふたりが対峙するシーンのうち、特に遠景のショットには必ずといっていいほど「何か」を隔…

「乗り逃げ」

「しかめっつらしい」「しかめつらしい」は、「鹿爪(しかつめ)らしい」と「しかめっ面」との混淆表現だとおもわれる。近年の誤用だと考えていたので、田原総一朗『あらかじめ失われた恋人たちよ』(1971,ATG)*1の石橋蓮司のセリフに出てきて、ちょっと驚…

『草燃える』放送中

「大河ドラマ」は時々しか見てこなかった。時間があればもっと見てみたいのだが、少しでも時間があれば、映画をみてしまう。 七年前の『武蔵』(主題曲:エンニオ・モリコーネ)は一見つくりが贅沢で、初回から見たので仕方なしに最後まで見たのだが、初回放…

購書日記から

一月某日 Nで、河西善三郎『漢字を楽しむ』(関西ジャーナル社)600円。昨年はじめに、Hで『漢字に学ぶ』という本を入手したが、その続篇であるらしい。新刊では、山口謡司先生の『漢字』も出ていたが、これはまだ買うかどうかわからない(『ん―日本語最後の…

ダイナマイトどんどん

朝青龍引退会見の一問一答に、「弱冠二十九歳で…」という箇所があり、「日本語の使い方がおかしい」、という声があちこちであがった(のを直接聞いた)。「弱冠は二十しか指さない」、というわけである。「『弱冠三十二歳にして国会議員になり』などという使…

ジョーイカタツ? ゲダツ?

貴乃花親方の当選を受けて、「上意下達の角界に風穴を」「上意下達という角界に反撥」などといった表現が、さっそく紙面を賑わせている。 これを書かれた記者の方々は、「上意下達」をどう読まれているのだろうか、とふと気になった。 国語辞典にはまだあま…

柳沢有紀夫『日本語でどづぞ』(中経の文庫)第二弾、『世界ニホン誤博覧会』が、こんどは新潮文庫から出ていた。前著よりも、分類基準がわかりやすくなって来た。 p.215、薬局の看板字を「わぁ〜すで〜い!」と解しているが*1、この「で」は「ご」なのでは…

そういえば、董国強編著『文革―南京大学14人の証言』(築地書館)の「コラム3 匡亜明と溧陽分校」に、安藤彦太郎が出て来た。 文革前夜の中国に二年間にわたり滞在するという、中国と国交のなかった当時の日本人としては極めて貴重な体験をした安藤彦太郎(…

出来ればながながと感想を書きたいが紹介だけ。

文革‐南京大学14人の証言作者: 董国強(南京大学歴史学科副教授)[編著],関智英[編訳/解説],金野純[編訳/解説],大澤肇[編訳/解説]出版社/メーカー: 築地書館発売日: 2009/11/27メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 2人 クリック: 18回この商品を含むブログ …