「あらかわそうべえ(そうべい)」のかな表記は幾通りあるのだろうか、と以前からちょっと気になっていたが、そういえば『外來語辭典』(弘文堂アテネ文庫)は「あらかわ そおべい」であった。(http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20100502/p2参照)
 惣郷正明の著書から引用しておく。

 昭和十六年(一九四一)、荒川惣兵衛氏が集大成した『外来語辞典』(冨山房)にはハンド・バックと濁らないのは阿部知二『友達』、広津和郎『過去』、牧逸馬『虹の故郷』にその文例があり、ハンド・バッグと濁るのは坪内逍遥『変化雛』、岡田三郎『痴愚のはて』、永井荷風『ひかげの花』に出ていると指摘してある*1
 荒川氏は昭和五年、福島県磐城中学校教諭当時、約五千語の『日本語となった英語』を自費出版し、翌六年、研究社からその改訂版を出版した。
 市河三喜博士が、文例を加えて欲しかったと書評したのにこたえて、その後十年間に三万冊、三〇〇万ページの文献から外来語一万、引用文六万を集めたのが、この『外来語辞典』で、昭和十六年、岡倉賞を獲得した。
 金田一京助博士は『日本外来語辞典』(大正四年、上田万年ら共著、三省堂)を手伝った折バリカンの語原を求めて二年間、何百冊もの文献をあさったが見つからず、本郷の床屋でバリカンにフランスのバリカン・マレー商会製造の刻印があるのを見つけて氷解した。
 しかも、その苦労の成果は、辞典にわずか三行であった体験から、冨山房版『外来語辞典』の一二〇〇ページを超す大著に絶大の賛辞を惜しまなかった。(『辭書漫歩』朝日イブニングニュース社、p.311)

 さらに詳しい記述が、これよりさきに出た惣郷正明『辞書風物誌』(朝日新聞社)にあって(pp.155-57)、冨山房版の書影も収めている(p.156)。「あらかわ そうべゑ」の文字をかろうじて確認することが出来る。
 なお、矢崎源九郎『日本の外来語』(岩波新書)によると、冨山房版を編む際に「荒川(惣兵衛―引用者)さんは六、七万語を集め、その中から一万語を選んだ」(p.29)のだそうで、これも『辞書風物誌』にある話なのだけれど(冨山房版の序文か何かを参照しているのだろうか?)、せっかく集めた残りの五〜六万語が、ちょっともったいない*2
 『ナゴヤベンじてん』も編んでいるらしい

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 ↑大好きな大好きな一曲。吉田正先生もちらと映る。

 ↑宝田明の長女である。20年ぶりで聴いた。『ジプシー』収録曲。



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*1:ちなみにアテネ文庫版も「ハンドバッグ」を採録しており、当該項に「ハンドバックは,避けたいなまり.」とある。

*2:二〇〇字詰原稿用紙二十万枚が一夜にして灰燼に帰したらしいが、そのため永久に日の目を見ることがないのだろうか?