結城昌治のショートショート

ショートショートの世界 (集英社新書)

ショートショートの世界 (集英社新書)

 ブックオフでひろった高井信ショートショートの世界』(集英社新書)は、ショートショートを読む際のよい手引きとなる本で、ショートショートにさほど親しんでいないわたしのような者でもおもしろく読めた。
 ただ、私の好きな結城昌治は、p.122にちらと出てくる程度だった。結城昌治にも、地味ながらショートショートの作品集がある。まず、未来工房刊の豆本『ショート・ショート集成』(23篇を収録しているという)があって、それに増補した普及版『結城昌治ショート・ショート全集』(六興出版)があり(35篇収録)、さらに増補して文庫化した『泥棒 ショート・ショート全集』(集英社文庫)がある(39篇収録)。文庫版は、単純に増補がなされたわけではなくて、なぜか「患者」が省かれ(見開き一頁の「超短篇」ながら、名品だとおもうのだが)、「綿密な計画」「初夢の百分の一」などが、「泥棒」というカテゴリにまとめられている*1
 もっとも、集英社文庫版はタイトルに「全集」と銘打たれてはいるが、それで全てだというわけではない。結城はその後もショートショートを書きついでおり、『怖い話(ミステリー)と短い話(ショート・ショート)』(中公文庫)などに、晩年の作品群が収められている。そのうち「無実」「指を鳴らす」は、「泥棒」シリーズに加えることができるだろうし、「遺書」は、山川方夫の「お守り」(これも名作である)にも似た、奇妙な味わいのある作品である。それから、あっと驚く結末が用意された「馬を射たり」も面白い。
 さて、『泥棒 ショート・ショート全集』を取出すといつも読みかえすのだが、この「解説」(虫明亜呂無)が素晴らしい。シュールレアリスティックな展開の「あたま山」に言及しながら、結城流ショートショートの超現実的な面白さを説き、「カタストロフの爽快感を味わわされ」る、「おまわりなんか知るもんかい」「彼の中の他人」「絶対反対」などを傑作として挙げている。なお虫明には、「『志ん生一代』(結城昌治著・朝日新聞社刊)をめぐる対話」という初出誌未詳の文章もあり(『女の足指と電話機―回想の女優たち』清流出版pp.267-73)、そこで虫明は、「あたま山」が志ん生の高座にかかるとその超現実的な話がまぎれもない真実に変わる、と書いている。これをショートショートでやってのけたのが結城昌治であった、ということが言いたかったのかもしれない。
 近年、結城作品は、『終着駅』(講談社文芸文庫)や「結城昌治コレクション」(光文社文庫、五巻)、「郷原部長刑事」シリーズ(創元推理文庫、三巻)、『暗い落日』(中公文庫)など、文庫でぽつぽつ再刊されてはいるが、ショートショートを収めたものは、残念ながらいずれも品切になったままである。
 松本清張の初文庫化作品集や、藤原審爾の「新宿警察」シリーズを出した双葉文庫あたりが、入手しにくいものも含めて出してくれることを期待しているのだけれど……。
女の足指と電話機―回想の女優たち

女の足指と電話機―回想の女優たち

結城昌治ショート・ショート全集 (1978年)

結城昌治ショート・ショート全集 (1978年)

泥棒―ショート・ショート全集 (集英社文庫 42-D)

泥棒―ショート・ショート全集 (集英社文庫 42-D)

*1:つまり、松本清張の『黒い画集』と似たようなもので、「泥棒」というタイトルの独立したショートショートが入っているわけではない。