朝青龍引退会見の一問一答に、「弱冠二十九歳で…」という箇所があり、「日本語の使い方がおかしい」、という声があちこちであがった(のを直接聞いた)。「弱冠は二十しか指さない」、というわけである。「『弱冠三十二歳にして国会議員になり』などという使われ方に出あうと、私はやはり、おやおやと思う」(駒田信二『漢字読み書きばなし』文春文庫1994,p.22)とあるように、三十代を「弱冠」とするのはさすがに無理があるのかもしれないが、しかし原田種成『漢文のすゝめ』(新潮選書1992,pp.234)に、「二十歳前後の若者を弱冠と言うのは誤りではない」とあり、また「『礼記』の「疏」によれば、二十歳前後どころか二十九歳までは『弱冠』と言ってよいのである」、とあるのを読むと、一概に「弱冠二十九歳」が誤りだとも言えなくなる。
それにしても、双羽黒の失踪騒ぎと同日に論じて「不祥事」と呼んでよいものなのかどうか……。
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■岡本喜八『ダイナマイトどんどん』(1978,大映)
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大傑作。占領下の日本。進駐軍の「お達し」の力もあって、やくざの抗争を「民主的に解決すべし」、という小倉の警察署長(藤岡琢也)の提案で、野球で勝負しようじゃないかということになる。「このままじゃ皆ひとからげに沖縄にやられて強制労働ばい。それでもよかとか!」と脅しをかける警察署長。ラストでは結局そうなってしまうが、沖縄の刑務所でも野球で勝負しよう、というところで終幕。まったく、「塀の中の懲りない面々」なのである。
劇中の「豊楽園球場」は実在した球場なのだそうで、「小倉球場」完成以前には公式戦が行われていたらしい(この映画は1950年が舞台ということになっている*1が、ロケ当時はすでに存在していないから、オープン・セットはどこか別の場所にこさえたのだろう)。
とにかく、この映画自体が壮大なパロディとなっていて、岡源の親分が嵐寛寿郎、橋傳の親分が金子信雄に配されているという時点で東映やくざ映画ファンなら大喜びだろう(配給は東映。この点からも、映画産業斜陽期の大映と東映の配給網の違いがよく分る)。特に金子は『仁義なき戦い』の山守組長を地で行く(という表現は妙だが)。つまり古狸、まさに「仁義なき」組長を好演しているのである。さらに、「広島死闘篇」の二大スター、菅原文太と北大路欣也が顔を揃えている。ふたりが対峙するシーンはさすがに迫力がある(喧嘩はあくまで泥臭い)。
このように、「実録路線」の役者を揃えておきながら*2、金子や後に述べる岸田森などを除けば、「仁義」「任侠」がまだまだ幅を利かせている世界。それは「岡源ダイナマイツ」の選手のアナクロニスティックな出で立ちからもわかる(背番号は花札の図柄を利用したもの)。岡源を裏切ることになる「元鉄砲玉」北大路だって、岩国の貸元に対する義理でやむなく動く。金などの打算的な事情で組を裏切るわけではない。のみならず、ラストでも岡源に対して粋な計らいを見せるのだ。つまり、役者は「実録」、しかし善玉=岡源は古来の「任侠」を全うしており、いわば東映任侠ものに「本卦がえり」をしているわけで、その点でも非常におもしろい。ただ、やっていることはハチャメチャな野球大会。これこそまさにパロディ精神の真骨頂というべきものだろう。
岡本映画の名バイプレーヤー、岸田森の怪演、ならぬ快演にも注目。ピンクのサテンの上下にソフト、胡散臭いったらありゃしない。あの手この手で野球経験者(もちろん渡世人ばかり)をスカウト。逃亡犯を捜しあててスカウトしたり、保釈金を積んで殺人犯をキャッチャーにスカウトしたり*3。また、クロスカッティングを巧妙に利用した大前均との追いかけっこも笑える。
地味ながら岸田の子分、二瓶正也も好演。彼も岡本映画のバイプレーヤーで、特に『にっぽん三銃士』でのオカマ役は強烈であった。
ほかにも、傷痍軍人のフランキー堺が相変わらずいいし*4、『ああ爆弾』で小悪党を演じた中谷一郎の抑えた演技も光る。それから、女優陣には宮下順子、伊佐山ひろ子*5、岡本麗と、にっかつロマンポルノの名優を揃えており、見どころがたくさんある。
画面もめいっぱいに使い、役者も楽しそうに演じていて、こんな作品は現代ではつくれないだろうな、とあらためて感じたことだった。
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ついでに、岡本喜八『ああ爆弾』(1964,東宝)のことも少し。
コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)の『万年筆』という作品に材を得たらしい。『鴛鴦歌合戦』しかり、この『ああ爆弾』しかり、和製ミュージカルというのはどうも「カルト的」な人気を得ることが多い。
当時は勅使河原宏『砂の女』との併映だったというのだから驚く。
越路吹雪の「ナンミョーホーレンゲーキョー」、沢村いき雄の「さんびゃくまん、さんびゃくまん、さんびゃくまん(独り言)」まで音楽にしてしまう、その発想力は恐るべし。作品内作品として『どぶ鼠作戦』が出てくる、遊び心もいっぱいの作品。
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