寅さんが元気だったころ

男はつらいよ』(1969,松竹大船)

男はつらいよ〈シリーズ第1作〉 [DVD]
監督は、山田洋次。脚本は、山田洋次森崎東。「寅さんシリーズ」は、全部で四十作品くらい観ているのですが、恥ずかしながら、第一作を観たのはこれが初めてです。
こんなに躍動感のある寅さんは、はじめて観ました。躍動感のある「渥美清」であれば、『喜劇 女は度胸』(1969,松竹大船)などで観られますが。
また、あんなに声をあげて泣く寅さんもはじめて観ました。寅さんは泣くのを堪えている男の典型―というイメージがずっとあったので、奇異な感じもうけましたが、こういう寅さんもわるくはない。バイをする前に仁義をきるシーンもあって、やはり映画化第一作ということもあってか、なかなか丁寧なつくりになっています。
それから、第何作であったかは忘れましたが、写真を撮るときに、寅さんが「はい、バター」とやります。その元ネタが、笠智衆(御前様)の〈勘違い〉にあったのだということもわかりました(それから、やっぱりおいちゃんは森川信がいい)。
テレビ版「男はつらいよ」(初回と最終回しか残っていない)も、ヴィデオで録画したはずなので、機会があれば観ようとおもいます。

『「元禄忠臣蔵 大石最後の一日」より琴の爪』(1957,東宝

監督は、堀川弘通。原作は、真山青果。原作の歌舞伎は、観たことがありません。
「討入り」後日譚で、中村扇雀磯貝十郎左衛門)と扇千景(乙女田杢之進の娘・おみの)とをめぐる「悲恋もの」にもなっています。観客をつねに不安にさせるクロスカッティングが、きわめて効果的につかわれており、また、成瀬巳喜男ではありませんが、堀川流「目線の藝」もありました。ほかにも、市井の人々が、四十七士を「逆賊」から逆に「忠臣」としてまつり上げていくところも描かれており、そのあたりも興味ふかい。
松本幸四郎大石内蔵助)が、中村扇雀磯貝十郎左衛門)の行動について不満を漏らすシーンがあるのですが、それが「琴の爪」(磯貝とおみのの愛の証)の伏線になっています。大石が切腹に臨むシーンで終るのも、たいへん印象的。
磯貝の懐中から「琴の爪」が見つかったのは、どうやら史実らしく、真山青果の原作はそれを元にしているそうです。