国産第一号の?

『接吻第1号』(1950,松竹)

監督:佐々木康、製作:久保光三、脚本:斎藤良輔鈴木兵吾、撮影:厚田雄春、主題歌および挿入歌:大野一夫「青空のもと」(詞:内田ゆたか、作曲:萬城目正、編曲:田代與志)、並木路子「ルンバの舞姫」(詞:内田ゆたか、作編曲:田代與志)、主な配役:若原雅夫(大下社長)、鶴田浩二(宇野兵太)、桂木洋子(工藤珠子)、日守新一(支社長)、山路義人(桶屋の熊吉)、槇芙花子(大下夫人)、高橋豊子(桶屋の女房)、西條鮎子(ルル松原)、磯野秋雄(巡査)、増田順二(劇場支配人)、遠山文雄(水野香風)、奈良眞養(支社事務員)。
題名にだまされました。「看板」ならぬ「題名」にいつわりあり、です。私はてっきり、国産第一号の「接吻映画」なのかとおもいましたよ。しかし、さにあらず。キスをする鶴田と桂木を、鶴田のバックから撮っており、これは明らかに唇をあわせていない
しかし、国産第一号の「接吻映画」は、さかのぼること四年前の『彼と彼女は行く』(1946,大映)であるといわれています。以下に、そのことについて書かれた本から、該当箇所を抜書きしておきます。

カストリ雑誌研究―シンボルにみる風俗史 (中公文庫)
キス第一号映画は、同年(1946年―引用者)四月十八日封切の大映映画『彼と彼女は行く』である。原作は舟橋聖一の「新胎」で、演出田中重雄、主演は見明凡太郎、逢初夢子、宇佐美淳、折原啓子。公園で宇佐美と折原とが唇をかわすシーンがある。この映画のおかげで、折原啓子は、キス第一号女優として、史上に残ることになった。ただし、二人とも口はとじたままである。一説によると、二人は唇にセロハンをはさんでこのシーンを撮影した。
この説は、たぶんウソだろうが、当時の日本人は、演技の上でキスをするなんて、信じられなかったのである。(中略)ともあれ、「接吻映画」というジャンルができ上がると、ただちに、つぎつぎと同類があらわれた。一ヵ月おくれて五月に封切られた大映映画『或る夜の接吻』(演出千葉泰樹、主演奈良光枝・若原雅夫)、および松竹映画『はたちの青春』(演出佐々木康、主演幾野道子・大坂志郎)がそれである。前者は、日本ではじめて「接吻」の名を冠したもの。ただし、接吻の場面はなく、若原と奈良が上半身だきあって、奈良が顔をあおむけにするという接吻直前までをうつしていた。後者は幾野と大坂によるキス・シーンがあったと伝えられているが、その詳細はさだかでない。
(山本明『カストリ雑誌研究―シンボルにみる風俗史』中公文庫,1998.p.63-64)

これによると、『接吻第1号』も正しく「接吻映画」の系譜につらなるもの、ということができるのでしょう。ただし、佐々木康が『はたちの青春』という「接吻映画」を撮っておきながら、なぜこの映画を『接吻第1号』と銘打ったのか、理解にくるしみます。
まあしかし、その点は措いても、なかなかおもしろい映画であったのは確かなので、文句はいえません。「青空のもと」という歌もなかなか良い。ちなみに、その歌をうたっている大野一夫さんも、キャンプ客として登場しています。