表紙の魅惑

明星編集部編 解題・橋本治『「明星」50年 601枚の表紙』(集英社新書

TVガイド特別編集『表紙で振り返るテレビ50年』(東京ニュース通信社

「明星」50年 601枚の表紙 (集英社新書)
小学五年生から高校二年生ころまで、切手を蒐集しておりました。『東京オリンピック』や『昆虫』など、手に入りやすいシリーズものから、『ビードロを吹く娘』や『えび蔵』など切手趣味週間の「一点もの」にいたるまで(『月に雁』、『見返り美人』など高いものは持っていません*1)、こつこつ集めていました。海外の変形切手やホログラム切手、というかわった切手も好きで、古本市や通信販売などで買っていました。
ところが、『20世紀デザイン切手』シート*2をこづかいで集めおえたころから、熱がさめてきました。今では、もっぱら切手カタログや切手アルバムを「見る」ばかりです。しかし、その美しい図柄に見入って、飽きることがありません。
「切手蒐集」という行為の意味は、なにかをコレクトしたがる心性と、「見る」たのしみとが交差したところにあります。これは何円の値打ちがあって、あれはどうで…という人は、切手蒐集にはあまりむいてないのではないか、とさえおもいます。まあ、嫉妬半分ですが(笑)。
さて、そういう元・切手蒐集家たる私の心をくすぐってくれる本が、明星編集部編、解題・橋本治*3『「明星」50年 601枚の表紙』(集英社新書,2002)です。題名からもわかるとおり、雑誌『明星』の表紙のコレクションです。すべてカラー。見ていると、切手を眺めているときのようにわくわくしてきます。しかも、私の好きな女優―淡島千景野添ひとみなど―が、『明星』の表紙を飾っていることがあったり、なつかしいスターの顔に出会えたりもするのです。
もちろん、橋本治さんの解題もおもしろく、表紙の「赤いバックと女優」という組合せに「イコン」としての役割をみたり(一九五〇年代)、女性読者を想定しはじめたために表紙から「女のスター」が消えてしまったと論じていたりして(一九九〇年代後半以降)、興味ふかく読みました。つまり雑誌の「表紙」のコレクションが、ちょっとした「戦後藝能史」あるいは「戦後風俗史」にもなっているというわけです。
そして、そのあとに出た、TVガイド特別編集『表紙で振り返るテレビ50年』(東京ニュース通信社,2003)が、これまたおもしろい。『TVガイド』の表紙を2093枚(!)載せた本です。この『TVガイド』の表紙を飾ってきたのは、『明星』とはちがって、話題の人やキャラクター(たまにはモノも…)ですから幅がひろい。たとえば創刊号は、アナウンサーの故・高橋圭三さん。第230号はウルトラマンマグマ大使、第501号は仮面ライダー、といった具合。ほかにも、グループサウンズや海外スター、お笑いタレントから人気子役まで、実にさまざまです。またこの本は、泉麻人さんの「私的TVガイド史」(まえがきにかえて)のほか、石坂浩二さんやピンク・レディーのインタビューも収めています。
ところで今、うらわ美術館ほか『創刊号のパノラマ』(岩波書店)が気になっているのですが(これは表紙だけを収めた本ではありません)、やや値が張るので、古本屋に出るのを待っています。

*1:のちに、「郵便切手の歩み」シリーズ第六集として覆刻されました。

*2:図柄が綺麗なので、あるいは歌麿の『ビードロを吹く娘』より気に入っているかもしれません。解説附きで、第十七集まであります。その存在をご存じでない方であれば、『愛染かつら』や『黄金バット』、『大槻文彦』、『のらくろ』、『凌雲閣(十二階)』、『機動戦士ガンダム』までもが切手になっていることに驚かれるかもしれません。とにかく何でもアリのシリーズなのです。予約購入すると、専用アルバムやマキシマムカード用台紙などが附いてきました。

*3:篠山紀信さんも寄稿しています。