「濡れ髪」に唸る

アルバイト、論文読み、読書。
夜中に、加戸敏『濡れ髪剣法』(1958,大映)を観る。以前から「濡れ髪」シリーズは面白い、と聞いていたのだけれど、まさかこれほどまでとは。二枚目半の市川雷蔵(松平源之助=平源平)が素晴らしいし、八千草薫(鶴姫)や中村玉緒(おみね)は楚々として愛らしく、潮万太郎(与平次)や南部彰三(芝田孫太夫)、香川良介(安藤将監)などはまさに「ハマり役」だ。

『濡れ髪剣法』(加戸敏)は、剣をとっては家中第一とうぬぼれていた若殿(雷蔵)が、許嫁の姫(八千草薫)に「みんなのお追従なのですよ」と笑われ、その近習(小堀明男)にさんざん打ちまかされ、自分の立場を知った彼は、あらためて修業のために藩を逐電し、身を落として江戸へと向かう。こうして世間知らずの若殿が日常の荒波にもまれながら重ねていく失敗ぶりを軽妙に描いていく前半はしごく面白いが、後半、お家騒動になるあたりからぐっとつまらなくなってしまう。しかし、この作品あたりから雷蔵のユーモア性が板についてくる。
(西脇英夫『日本のアクション映画』教養文庫,p.240)

「お家騒動」のあたりには、たしかに退屈なシーンもあるけれど、むしろ〈お約束〉の後半こそ面白いのではないか。つまり、雷蔵が二枚目半から正真正銘の「二枚目」になるまでが。しかも興味ふかいのは、劇中で源之助の好んで多用する「諺」が、はじめ世間には見事なまでに通用しないということ。つまり、「松平源之助の諺」を佐平次(フランキー堺)に置き換えてみると、杢兵衛(市村俊幸)こそまさに「世間」そのものなのだ*1。しかし、源之助が「世間知」を獲得してゆく過程で、彼の諺も冴え渡るようになる。そしてラスト。源之助は、鶴姫に「諺」でやり返されるのだからもう最高だ。
残り四本の「濡れ髪」シリーズも保存しているので、時間のあるときに観てみたい。
お笑い 男の星座2 私情最強編 (文春文庫)
浅草キッド『お笑い 男の星座2 私情最強編』(文春文庫)を一気に読む。スグに読める。一章あたりの分量は増えているが、前作よりもはるかに面白い。特に面白く読んだのは、「第五章 江頭グラン・ブルー」と「最終章 『Dynamite!』に火をつけろ!」あたりか。裏話が満載の「番外編 男のホモっ気・百瀬博教」は、百瀬博教の衝撃的な半生にもふれている。百瀬氏が、すさまじい活字中毒者だったとは知らなんだ。それから実は初めて知ったのだが、「4ちゃんねる!!」で水道橋博士が書いた「万歩書店」でのエピソードも面白かった。『プライドの怪人』、機会があれば読んでみたい。

*1:川島雄三幕末太陽傳』(1957,日活)のあのラストシーン。