ある殺人

「書虫」を覗いてみると、欲しい本が増えている。平山久雄平山久雄語言学論文集』(商務印書館)1230円。簡体字。著作目録が附いている。論文十七篇を収めているそうだが、詳細をもっと知りたいところ。郭在貽『訓詁學(修訂本)』(中華書局)が1290円。こちらは繁体字。『現代漢語詞典(第5版)』(商務印書館)は3920円。いまだに、買うか買うまいかで悩んでいる。修訂本は持っているのだが、中身を確かめてみたい気もする。
それからこれは欲しいわけではないが、『電車男』(学林)1290円もあった。そこそこ売れているらしい。
十二年前に新本で買った(しかもコンビニで)、野呂邦暢他『前代未聞の推理小説集』(双葉文庫)が出てきた。そういえば「野呂邦暢」の名は、この本で知ったのだ。
野呂邦暢「ある殺人」、羽仁五郎「その後会えなかった男」、古川薫「古墳殺人事件」、赤塚不二夫「ある吸血鬼の犯罪」、白石一郎「地蔵谷」、川村晃「継母の秘密」、三浦朱門「逃げた女房」、宮原昭夫「若葉照る」、吉田知子「角の家」、虫明亜呂無「奇想曲(カプリチオ)」、夏堀正元「殺人協定」の十一篇(『小説推理』1979.1〜12月号の『推理小説に挑戦』欄に掲載されたもの)を収めている。
野呂邦暢「ある殺人」だけ再読。結末は覚えていたものの、「方言」「ガ行鼻濁音」の話が出てくることはすっかり忘れていた*1。と言うよりは、当時は「鼻濁音」というタームじたいを知らなかったものとみえる*2
…と書いていたら、とつぜん思い出した。「鼻濁音」は、金田一京助監修『明解 国語辞典(改訂版)』(三省堂*3で知ったのだ。これは九年ほど前に、母がくれたものなのだが、見出し語の鼻濁音を示すものには濁点ではなく、半濁点のようなものが附いている。それが奇異に思えたのである。
「方言」が謎解きの手がかりとなる推理小説には、たとえば松本清張砂の器』があるが、『ある殺人』はあまり知られていないかもしれない。野呂邦暢が、長崎出身の作家として九州方言に少なからず興味を抱いていたことも分る面白い作品なのだが。
ところで、作中に「趣味で日本の方言を研究している医師が、学界の雑誌に短い随筆を書いていた」(p.25)とあるのだが、モデルとなった医師が実在するのだろうか。

*1:余談であるが、「こんな晩」の話も出てきた。

*2:「ガ行鼻濁音」とは、鼻音性のガ行音[ŋ]。語頭に立つ場合は鼻濁音にならない。詳しくは、たとえば井上史雄『日本語ウォッチング』(岩波新書,p.162−67)をご覧ください。

*3:昭和二十七年発行→昭和四十三年改訂133版。