講演会

大学へ。某先生の講演会。
その先生が書かれた新書を読んだことがある。刺激的な内容であった。今回のご講演も面白く拝聴した。
Kでジュール・ヴェルヌ 榊原晃三訳『地軸変更計画』(創元SF文庫)を購う。『月世界旅行月世界へ行く)』の続篇である。
月世界旅行』の邦訳版は、明治十三(1880)年にはすでに存在したらしいが、訳者も内容も詳らかにしえないという。またメリエスの『月世界旅行』は、つい最近になってようやく観ることができたのだが、原作の内容をほとんど無視している。
川口松太郎『愛子いとしや』(講談社文庫)を読む。近年、何かと世間の批判(非難)にさらされている一連の「母もの映画」は、「日本映画専門チャンネル」が集中的に放送したことがあるのだが、まだ三本しか観ていない。今度観る機会があれば、三益愛子の演技に注目しようと思った。
【追記】(2005.9.19)
kuzan様から、井上勤訳『月世界旅行』(明治十三年)が存在することをご教示いただきました。創元SF文庫版『月世界へ行く』(江口清訳)の「訳者あとがき」は、井上訳の『月世界旅行』についても触れているのですが、『地球から月へ』の翻案であるというふうに書いてあります(ただし刊行年が違う)。

月世界旅行」と題する小説の翻訳は、松田穣氏の〈比較文学〉誌上に掲載された「日本文学とフランス文学」によれば、すでに明治十三年にあるとのことだが、遺憾ながらその内容も訳者もつまびらかになしえない。明治十一年(一八七八年)六月刊行された川島忠之助訳の『八十日間世界一周』は、拙訳をこころみるにあたり読んでみたが、なかなかりっぱな訳であって、余談にわたるが、この訳本が、わが国における仏文学翻訳の嚆矢であることを、付言しておく。この訳書からはじまって二十一年までの一〇年間に、ヴェルヌの翻訳は一〇篇も刊行されていて、森田思軒訳の『十五少年』などは、大いに洛陽の紙価を高めたと聞いている。『月世界旅行』と題する明治十九年九月(ママ)刊行の井上務(ママ)訳述もあるが、これは『地球から月へ』の、翻訳というより翻案に近いものである。(江口清「訳者あとがき」,p.316-17)

実をいうと私は、『月世界旅行』と『地球から月へ』を同一のものと思い込んでいたのですが、両者は別の作品であるというのです*1。『地軸変更計画』の「訳者あとがき」には次のようにあります。

大砲クラブの月世界探検計画は、ふたつの長篇で描かれている。三人の乗組員を乗せた砲弾を打ちあげるまでの物語『地球から月へ』(原題 De La Terre a la lune: Trajet diredt en 97 heures、1865)と、砲弾が月面にむかう軌道から逸れ、月をひとまわりして地球に帰還するまでを綴った『月世界をめぐって』(原題 Autour De La Lune、1870)である。ストーリイとしては連続している作品だが、残念ながら、これまでわが国ではまとまって紹介される機会が少なく、…(榊原晃三「訳者あとがき」,p.241)

さて、「近代デジタルライブラリー」の井上訳『月世界旅行』を見てみると、その題名は『九十七時二十分間月世界旅行』となっており、これはやはり『地球から月へ』の翻訳ではないかと思われます。確かに、作品の末尾をみてみると、

譯者曰ク此卷第十六回ノ冒頭ニシテ筆ヲ閣スルモノハ紙數限リアルヲ以テナリ然シテ此囘ノ末段ニ至リ巨砲全ク成功ヲ遂ケ月世界旅行ノ準備整頓シテ稍妙境ニ入ラントス(第四卷三十)

となっていて、この章段が月へ行く前の話で終わるということが分ります。
そうすると、松田穣氏が紹介した『月世界旅行』は、「近代デジタルライブラリー」所収の井上訳、そして江口氏のいう井上訳と同じものだという可能性もあるわけです。

*1:月世界へ行く』(創元SF文庫)の冒頭には「序章」があり、それが『地球から月へ』の梗概になっています。