出久根達郎さんの話をきく

雨ふる。
「研究発表会」をとるか、関西大学の「公開授業」(読書教養講座)をとるかで迷った結果、「公開授業」に行くことにする。この機会を逃せば、関大に行く機会もそうそうあるまい、と思ったし、何よりも出久根達郎さんをまぢかで見ておきたい、と思ったのだ。
お供本は、出久根達郎『古本綺譚』(中公文庫)。再読なのだが、特に「お詫びのしるし」や「狂聖・芦原将軍探索行」には、汲めども尽きぬ味わいがあると思う。
関大前で電車を降りて、学生街をあるく。帳面は持ってきたのだが、筆記用具を忘れてしまったことに気づき、坂の途中のコンビニに入る。油性ボールペンとペットボトル入りのお茶を買う。女性店員の愛想が良くない。お釣りを投げてよこすような感じなので、気分が悪い。
コンビニを出て、新古書店や古本屋が何軒かある通りを(我慢しつつ)抜け、正門へ。思ったよりも早く会場に着いたので、外の出久根本コーナーなどを見てまわる。そこで出久根達郎『あらいざらい本の話』(河出書房新社)を買う。サイン本。しかも特別定価で、二百円ほど割引をしてくれた。
開演は二時ちょうど。前半は、出久根氏の講演「古本屋の本の読み方」。一四七万円の値がついた偽書、藤村操『煩悶記』の話。それを買った谷沢永一氏の話。文雅堂とその主人の話。『古本綺譚』から『猫の縁談』に至る経緯。辞書の読み方。インデックスや解説の活用。移動図書館の思い出。等々。
後半は、出久根氏と山野博史氏の対談。司馬遼太郎の作品に登場する人物の数について。剣法の話。目録の話。仕事中の姿勢(腹ばいになって書く)について。売上げについて。買入れの労苦。等々。
山野氏は、出久根氏のファンなのだそうで、その著作を五十冊ほど持っているらしい。講座資料として配付された「出久根達郎著書目録」(山野氏による)は、なるほど役に立ちそうだ。また、出久根さん自身がすすめていた『百貌百言』や、『逢わばや見ばや』*1は、そろそろ読まねばなるまいと思った。
帰途は、人の多さと人いきれに閉口したので、ブックオフ関大前店にでも入って人が引くのを待とう、と思い立つ。結局、ここで一時間近く過ごし、斎藤真一『吉原炎上』(文春文庫)、向井敏文章読本』(文春文庫)、水上勉『白蛇抄』(集英社文庫)、杉森久英『昭和の怪物たち』(河出文庫)、横溝正史『自選人形佐七捕物帳一 羽子板娘』(角川文庫)を購う。各105円。
ブックオフを出ると、さきほど通り過ぎたところにあったリサイクル書店がにわかに気になり始め、また戻る。小さな店だが、せっかくなので入ってみることにする。店内には携帯電話を弄っている少女がいて、客かと思ったら彼女こそが店番だったので驚く。しかし、行きのコンビニの女性店員よりも遥かに愛想がよく、安心する。
松本清張岸田劉生晩景』(新潮文庫)100円、横溝正史『本陣殺人事件』(春陽文庫)250円を買う。後者は「装釘買い」。もしかするとSFファンにはお馴染みかもしれない、中島靖侃のデザイン。
店を出ると、雨が小降りになっている。で、気になっていた看板を見にいくことにする。その気になった看板というのは、こうだ。「古書 学習書・洋書 七万冊」「←古本 5円ヨリ」。確かそんな看板だった。だが、矢印の方向を見ても、それらしい建物がいっこう見当らない。ただ小さな建物がL字型になっていて、袋小路をつくっている。しかもその建物には、ラーメン屋とか喫茶店とかがひしめき合っているだけだ。この附近には、かつて大型古本センターがあったが潰れてしまった――、と聞いたことがあるので、もしかするとその余波なのかも知れない。
宵闇も迫ってきたので、『正午なり』の忠夫ではないが、「帰るか、さあ帰ろう」と独りごちて、そのまま駅へと向かう。帰宅は午後七時過ぎ。

*1:岡崎武志さんが、『古本夜話』(ちくま文庫)の解説「湯上がり顔の司祭」でふれている。