中野翠のコラムなど

晴れ。水曜の演習のレジュメを、ゆるゆると仕上げていく。
毎日一人はおもしろい人がいる よりぬき (講談社プラスアルファ文庫)
中野翠『毎日一人はおもしろい人がいる よりぬき』(講談社+α文庫)を百頁ほど読む。五十代の弘田三枝子(p.38)について書いていたが、「あのこと」はさすがに書いていなかった。ショパン猪狩(p.46)はこのあいだ亡くなったばかりだから、そのシンクロニシティにちょっと驚く。「『逆に……』の口癖男」(p.79-80)はおかしかったし、「歌舞伎座の掛け声青年」(p.82-83)には、ある種の羨望さえ感じた。歌舞伎座で、「中村屋!」「小山三!」などと掛け声をかけていた青年の話なのである。これがクラシックマニアだと、「スコアを見ながらチッと舌打ちをする青年」になるのだろうか。まさか。だが、ブラーヴォの連発だけではいかにも藝がない。
夜、アルバイト。くたくたに疲れた。
久々に、来生たかおのアルバム『Another Story』を聴く。「挟み撃ち」「永遠なる序章」「枯葉の寝床」「ひとりよがりの人魚」「冷たくても夢中」「幕が下りてから」「不意の出来事」「檸檬」「夏わかば」「風と共に去りぬ」の十曲。カンの良い方ならお気づきだろうが、全て、「文学作品」の題名を拝借した曲名となっている。
来生えつこは、曲のタイトルについて、「基本は、私えつこ、弟たかおが、長年敬愛している作家の作品(から拝借したもの―引用者)であるということです」と解説している。
以下に、その作家名を記しておきます。全部お分かりになる方は、相当な文学通だと思います。
「挟み撃ち」は後藤明生、「永遠なる序章」は椎名麟三、「枯葉の寝床」は森茉莉、「ひとりよがりの人魚」は田中小実昌、「冷たくても夢中」は来生えつこ、「幕が下りてから」は安岡章太郎、「不意の出来事」は吉行淳之介、「檸檬」は梶井基次郎、「夏わかば」は野坂昭如、「風と共に去りぬ」はマーガレット・ミッチェル(大久保康雄訳、とある。新潮文庫ですね)。