「桜林」に感動

所用あって出かける。午前、散髪。やや驚くことあり。
中尾書店で、小田実開高健『世界カタコト辞典』(文春文庫)100円を購う。「阪急古書のまち」は、この十二月で三十周年を迎えるらしく、その記念として「読書メモ」(特製メモ帳)を頂いた。他にも、なにか記念のイベントが行われると聞いたはずなのだが、ホームページを見ても、内容が更新されていない。
紀伊國屋書店にも寄ってみた。三島由紀夫関連の本が多く出ている。この本の続篇も出ていた。
三島事件といえば、中島義道三島由紀夫が自決した日の思い出」(『生きにくい……』角川書店所収)という印象的な文章もある。

生きにくい…―私は哲学病。 (文芸シリーズ)
じつは、一九年前のあの日そしてちょうどあの時、私は市ヶ谷駅を通過していたのだ。渋谷に着いて何やら騒がしい人々の渦の中に入って聞き出すと、三島由紀夫が自決したというニュースであった。
私はしばらく渋谷駅に留まって、さまざまな人に新聞記者のように事実を聞いて回った。ふと時計を見ると、大森荘蔵先生のゼミが始まっていることに気づく。急いで駒場に向かい、扉を開けると、数人の生徒を前に大森先生が黒板に向かって何やら難しい数式を書いている。「あの……」と私が言うと、先生が振り向きそして数人の生徒も私をじっと見つめた。「今、三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊本部で割腹自殺したそうです!」私は興奮して叫んだ。すると、ほんのしばらくの沈黙の後、大森先生は「ああそうですか」と言われた。そして「では、次に進みます」と黒板にサラサラと次の数式をかきはじめた。そこにいた学生たちも、何ごともなかったかのようにそれを写しはじめた。ゼミが終わっても、先生はそれについて何も語らずにそのまま教室を出られた。(p.105)

そういえば、今週の『週刊新潮』に、事件時の三島や市ヶ谷駐屯地の写真(初公開とか)が載っている。
車内では、小山清「桜林」を読む。これはたいへん面白い。「大菩薩峠」のことだの、「写真屋加藤」のことだの、「しづや」→「しいや」という発音のことだのと、ディテイルもやたらと気になる佳品だった。かなり以前には、私にも「のぶちゃん」のような友達があったのだが。
帰宅後、論文三本を読む。かなりへヴィで、体にこたえる。