三島由紀夫と空飛ぶ円盤

唐沢俊一『新・UFO入門』(幻冬舎新書)の「盗作騒動」は、はじめ「正式の証明」(id:u-sen)で知り、それからあちこちで話題になっているのを見たのだが(「2ちゃんねる」、『週刊新潮』6月21日特大号pp.57-58など)、それはともかく、CBA(Cosmic Brotherhood Association)事件と著名人とのかかわりを、とくに面白く読んだのであった。初期CBAが主催した「空飛ぶ円盤観測会」に、三島由紀夫がたびたび参加していた、という話も出て来たが(三島の「『空飛ぶ円盤』の観測に失敗して」も引用されている)、このあいだ出た三島由紀夫『黒蜥蜴』(学研M文庫)*1所収の対談に、UFOの話題がちょっと出て来る。引用してみよう(引用文中の「三島」は三島由紀夫、「江戸川」は江戸川乱歩、「芥川」は芥川比呂志、「山村」は山村正夫、のことである)。

三島 空飛ぶ円盤信じますか。
江戸川 ぼくは確証をうるまで信じない方です。心霊現象なんかもおなじですね。
三島 ぼくは絶対に信じる。
芥川 この間「朝日ジュニア」からアンケートが来たけれども、人工衛星がまわっている世の中だから、空飛ぶ円盤だってありそうな気がする。
江戸川 そういう比論では信じられない。現実に確かめなくては。
三島 ぼくは頭から信じちゃう。そして、ぼくはお化けはきっといると思うの。(笑)
山村 心霊実験も信じますか。
三島 信じますね。
江戸川 心霊というものがないとは云わないけれども、夜光塗料をぬった人形が踊ったり、机が天井にあがったりするあの実験は信じない。手品ですよ。(p.218

いささか興奮気味の三島に対し、乱歩が若干さめている(あるいは「引いている」)ように見受けられるのがおもしろい(ちなみにこの座談会の記事は、三島、乱歩の全集には未収録で、新保博久山前譲編『乱歩・下巻』講談社に収録されているという。初出は、『宝石』昭和三十三年十月号「座談会・狐狗狸の夕べ」)。
ついでに、もうひとつ引用しておこう。

日本空飛ぶ円盤研究会(以下、円盤研究会)の設立準備が始まったのは、(中略)昭和三十年七月である。顧問には荒井(欣一―引用者)の友人で作家の北村小松徳川夢声ら七名の著名人が就任し、荒正人新田次郎、畑中武雄が特別会員として名を連ねた。朝日新聞や「週刊読売」などに研究会の紹介記事が出た直後からさらに会員が増え始め、新潮社から世界の奇談シリーズを出していた黒沼健や、若き作曲家として勢いのあった黛敏郎芥川賞を受賞したばかりの石原慎太郎ら著名人たちが続々と入会した。会費だけ払って実際には顔を出さない会員もいる中で、熱心に円盤観測会などのイベントにも顔を出していたのが会員番号一二番の三島由紀夫だった。柴野(拓美―引用者)の会員番号は四五番だったから、三島はそれよりも早い入会である。(最相葉月星新一 一〇〇一話をつくった人』新潮社,p.194)

意外だったのは、円盤研究会の顧問として、石黒敬七や、「ペンシルロケット」の糸川英夫*2らが名を連ねていたということである(そのことは、唐沢前掲書に書かれているとおりだ)。
◆ところで徳川夢声は、石黒敬七について、「あらゆる社交的の会合、娯楽的の会合では、必ず一枚加わる名前だ。ご当人が、頗る会合好きでもあるらしい。彼が、発起人になってる会も無数にある。私なども、時々敬旦那から召集されたり、勧誘されたりで、いろいろの会に出かけることしばしばあり」(『いろは交友録』ネット武蔵野,p.186)と書いているから、石黒は、単に「空飛ぶ円盤」のもの珍しさにひかれて(つまり存在を信じる・信じないというスタンスとはまったく関係なく)「円盤研究会」の顧問に収まっただけなのかもしれない。

*1:この戯曲版『黒蜥蜴』(原作は江戸川乱歩)は、初めて文庫化されたのだとか。

*2:はずかしながら、吉田武『はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語』(幻冬舎新書)でその存在を知ったばかり。