オムニバス映画

夜、成瀬巳喜男ほか『くちづけ』(1955,東宝)を観た(増村保造デハナイ)。オムニバス映画で、筧正典「くちづけ」(第一話)、鈴木英夫「霧の中の少女」(第二話)、成瀬巳喜男「女同士」(第三話)の三話構成。
青い山脈』の系譜に位置づけられそうな「くちづけ」は、しかし所謂「自由恋愛」からは程遠いもので(『青い山脈』の主要人物・杉葉子が、「未亡人」となって出て来ることに注意せねばなるまい)、主人公・青山京子(夏目くみ子)は(太刀川洋一いうところの)「少女趣味」に憑かれている。小道具の凧の使い方には唸らされたが、そういえば成瀬巳喜男も、『夫婦』で凧を使っていたっけ。
「霧の中の少女」に出て来る司葉子(金井由子)は、青山京子よりもずっと「進んで」いて、父母、すなわち藤原釜足(半造)や清川虹子(テツ子)ら旧い世代とは隔絶している。侠な祖母の飯田蝶子(八十子)も(老け役時代の北林谷榮みたいで)いいが、司の妹役を演じている中原ひとみがとにかく素晴らしい。初めは母親よりもずっと楽観的だった父親役の藤原が、司と小泉博(上村英吉)の仲が思いのほか親密であることを知って、急に慌てはじめる展開が可笑しい。
「女同士」は成瀬らしい手堅い作品。往来を行き交うチンドン屋や修行僧など、ディテールを描くに吝かでなくて素晴らしい(例えば『銀座化粧』も、筋以前に、まずはディテールの描写が秀れた作品だと愚考します)。初めはあまり可愛く思えない中村メイ子(キヨ子)が、だんだん健気に見えてくるのが不思議といえば不思議。
題名からも察せられるとおり、これは三角関係が題材となっている。その三角関係―すなわち「男ひとりと女ふたり」(「恋の鞘当て」とは逆のパタン)―といえば、すぐに思い当るのは豊田四郎の『猫と庄造と二人のをんな』だが、戦前の『妻よ薔薇のやうに』や後年の『妻として女として』など、成瀬映画でもまたお馴染みの構図なのだった。「女同士」では、医者である上原謙(金田有三)とその妻・高峰秀子(明子)、看護婦の中村(キヨ子)が主たる登場人物なのだが、中村は小林桂樹(竹谷清吉)と結婚し、三角関係から「降りる」。
それでホッとするのも束の間、今度は八千草薫が看護婦としてやって来る。彼女を見て複雑な表情を浮かべる高峰の演技が大変良い。