杉森久英

曇り。体調はまあまあ。
書物奉行さんの記事を拝読したり、大村彦次郎『文士のいる風景』(ちくま文庫)の「何を好きこのんで拙い小説など書くものか」(pp.295-97)を読んだり、最近、「杉森久英」の名を目にする機会が多いような気がする。
杉森の著作は、実をいうとほとんど読んだことが無い。河出文庫に入ったものを二冊くらいか。もうひとつ、丸谷才一編『国語改革を批判する』(中公文庫)*1に、杉森久英「国語改革の歴史(戦後)」というのが収めてあって、これも読んだことがある(ちなみに戦前篇は大野晋氏が担当)。
杉森の代表作『天才と狂人の間』(直木賞受賞作)は、島田清次郎の生涯を描いたことで知られる作品。私は河出文庫版ではなく角川文庫版を所有しているが、やはり積読状態だ。この作品では、島田が蘆原将軍(この人物については、出久根達郎『古本綺譚』などを参照のこと)の侍従を務めていたことになっているのだそうだが、それは史実でないらしい……というのを、ここで知った(コメント欄も面白い)。
また、竹信悦夫『ワンコイン悦楽堂―ミネルヴァの梟は百円本の森に降り立つ』(情報センター出版局)で知ったのが、『天才と狂人の間』が直木賞を受賞したとき、候補作に結城昌治『ゴメスの名はゴメス』も挙がっていたということ。竹信氏いわく「私はそちら(『天才と狂人の間』―引用者)を読んでいないので、作品の善し悪しについては何とも言えませんが、読者の獲得という点では候補作(『ゴメスの名はゴメス』―引用者)の方が息が長かったようです」(前掲書,p.311)。
たしかに、結城昌治のほうが杉森久英よりも知名度が上だという事実は否めない。

*1:もともと、中央公論社(現新社)の「日本語の世界」シリーズに入っていたもので、『国語改革を批判する』はその最終巻である。文庫版の解説は高島俊男氏で、旧かな(正かな)で書いている。このシリーズは、なぜか一部のみが文庫化されている。例えば「日本の漢字」が文庫化されていて、「中国の漢字」が文庫化されていないのは、やはり仕方のないこととはいえ、中途半端な感じがしないでもない。