山下清の本

甲子園に行くはずであったが、雨がざあざあ降るわ雷は鳴るわで取り止め。頂いたチケットをフイにする。
ヨーロッパぶらりぶらり (ちくま文庫)
山下清『ヨーロッパぶらりぶらり』(ちくま文庫)を読む。時々声に出して笑ってしまいそうなところがあるが(清と「先生」のやり取りがかけ合い漫才のようで面白い)、ドキリとさせられるものも。「それにしても、ほかの人たちがよく買物をするのでびっくりした。(中略)ほかの品物だって日本の方がいいものもあるはずなのに、まるでやたらと買っているように見える。なんだか見物するよりも買物するのに一生けんめいのようだった」(p.82)。「『人間はどんな不幸なときでも、さきにしあわせが待っているかもしれないと思うと、元気がでてくる。アンデルセンは人間にいい夢をつくってくれた』と先生がいうので『いい夢でもわるい夢でも、夢は夢だな。さめればおんなじだ』『清はしあわせになりたいと思ったことはないのかな』『しあわせになれるかどうか、さきのことはわからないな。ぼくはしあわせでも不しあわせでもなくて、いつもふつうだな』というと、だんだん日がくれてきて、人魚の像もただの黒いかげみたいになってしまったので、町へ帰って洋食をたべて、宿に帰ってねたが、夢はみなかった」(pp.93-94)。赤瀬川原平の解説「過激な質問者の山下清」も秀逸である。これは、『ちくま文庫解説傑作集』にも収められている。
式場俊三監修『みんなの心に生きた山下清』(1985)というカタログをパラパラとやる。『ヨーロッパぶらりぶらり』に「式場先生」あるいは「先生」として登場する式場隆三郎が、清と一緒に写ったスナップもある(p.153)。そのスナップの下には、宇野重吉による「式場さんの死」という文章が。その宇野も、この世にもうない。
式場の死は、カタログの「放浪以後」(pp.120-27)も言及している。

昭和四十年に式場隆三郎が死んだ。この一種の仕事魔から解放された清が、ほっとしたかどうかわからない。ちょうど地方の展覧会に出向いていて、日本人の平均寿命の話などしているところへ知らせがとどいた。「先生は六十七で死んだな、ちょうどいいな」というのが彼の送別の言葉だった。日本人男子の平均寿命とぴたりだったのである。(p.124)

さて、明日は『蒼い描点』がフジ系列でかかる。録画しておかないと。
『黒い樹海』と同じく菊川怜主演。昨年秋に放送された『黒い〜』は、あまり期待せずに観たのだが*1、これがなかなか良かったので、明日の『蒼い〜』にも期待。
清張ものは、犯人が分っていても見てしまうんだよなぁ。その度にハラハラするし。

*1:長篇はだいたい消化不良に終わってしまうので。