台北旅行(2)

旅行二日目。朝七時ころ起きる。外は雨。
午前八時すぎにXホテルを出て、大型バスに乗り込む。保安宮〜孔子廟〜中正紀念館などを見てまわる。保安宮には、保生大帝という神様だけではなくて、多くの知識人たちが仏として祀られてある。おお董仲舒じゃないか、そこにましますのは杜子春、などと興奮しながら見ていた。隣接する孔子廟も非常に興味ふかい。日本式にいえば神仏習合というのか、神と仏とが仲良く同居している感があった。
午前はまた、大山で茶藝の講話をうける。蓮の実や高山烏龍茶をいただく。午食は梅子餐廳で。どれもこれもが美味。それから免税店、J堂という足裏マッサージ店に行く。我々はマッサージは受けなかったのだけれど、漢方薬を前にして妙なショーを見せられたり、おばさんには漢方薬を買えと迫られたりして閉口。日本人は絶好のカモなのか。
午後は、故宮博物館で毛公鼎や西太后のつけ爪などを見てまた興奮。写真を撮れないというのが残念であった。妹はヨーロッパへ行ったことがあるだけに、フランスのなんとか美術館では写真撮影オッケーだったのに残念やわあ、とか言っていやがる(笑)。ちぇっ。
夕方は免税店で解散。私は重慶南路一段にあるという書店街(新本屋ばかり)へ。父もついて来ることに(手持ち無沙汰にさせるのが申しわけないのだが…)。まず「臺灣商務印書館」にて、胡樸安『中國訓詁學史』(臺灣商務印書館中國文化史叢書)200元を買う。王雲五の本がやたらと置いてあり、古本といってもおかしくない古色蒼然とした四庫全書やら佩文韻府やらが置いてある。「三民書局」では、朴現圭・朴貞玉『廣韻版本考』(學海出版社)200元黄靜吟『漢字筆順研究』(駱駝出版社)110元劉復・李家瑞編『宋元以來俗字譜』(中央研究院歴史語言研究所、三民書局・代)260元を購う。特に、『宋元以來俗字譜』は、ずっとコピーか貸し出しで済ませてきた本であり、日本では取り寄せるのが困難だったので(東方書店のHPでも、すこし前までは取寄せ不可になっていた)、900円くらいで入手出来たというのは感動的ですらあった。
その後、父とタクシーで夕食場所の正福縁へと向かうが、途中で降ろされてしまい(運転手のKさん―日本語は理解できないようだが、五木ひろしの歌が車内でかかっていた―は方向を教えてくれたのだが)、仕方なしにとぼとぼ歩く。ところが目当ての店が全く見つからないので、二十代の女性(荒川静香似)にまず道を訊き、教えてくれた方向へと歩くが(心配して途中までついて来てくれたのだが)、やはり見つからない。今度はチラシを配っていたあんちゃんに訊ねると、さっき女性が教えてくれた道とはまったく逆の方向だという。で、散々迷う。
目的地附近にいると分っていながら、母や妹の提案にしたがって(携帯電話で会話をしていた)、結局タクシーを使うことに。運転手(呉智英似)に店までの行き方を示した地図を見せるが、「濡れてて見えないぜ!」と怒られる(笑っていたけれど)。母と妹が正福縁の店員と話をつけてくれ、店員と運転手が携帯電話ごしに「この通りをまっすぐか」「いや違う、その建物は見えないんだ」「だから地図が見えなかったんだよ」などと怒鳴りあいをしながら(実際は怒鳴り合いではなくて、そう見えるだけなのだが)、ようやく店の前まで連れていってもらう。最初に、Kさんが教えてくれた道で正解だったのだ。
濡れ鼠で気分は最悪だったが、台湾ビールのアルコールが胃袋に注入され、さらに、巨大フカヒレや巨大エビに圧倒されて元気が出る。これほど大きなフカヒレを目にするのは最初で最後だろう。
夕食後、二十四時間営業で有名な「誠品書店」敦南店までタクシーで行く。父と母は先に帰り、私は妹と店内をうろうろする。日本語本コーナーには、岡崎武志さん、山下武さん、紀田順一郎さんの本が。『本とコンピュータ』もあって、いわゆる「本の本」が多かった。何故なのだろう。また、『神保町書蟲―愛書狂的東京古書街朝聖之旅』(池谷伊佐夫さんの『神保町の蟲―新東京古書店グラフィティ』の中国語訳本)や『書店風雲録』(これはそのままですね。田口久美子さんの『書店風雲録』の中国語訳本)も見つけた。
この書店では、葉怡君『妖怪玩物誌』(遠流出版公司)280元『逛書架』『逛逛書架』(いずれも邊城出版BiBLiO)810元(但し二冊買うと、二十五パーセント引きになる*1)を買った。『妖怪玩物誌』は、「哈日族」の一人だといってもいい葉氏が書いた本で、紹介されている妖怪関連の玩具(根付もある)は日本のものばかりだ。彼女にはほかに『食玩不思議』という著作があって、これも面白そうであったが、購入は見送った。また『逛書架』『逛逛書架』は豪華ムックで、日本の本でいうと、『センセイの書斎』『本棚が見たい!』『書斎曼荼羅』みたいなもの、と言えばいいかもしれない。写真や図版が多数掲載されており、とくに本棚の写真はA3判いっぱいに使っているので、本好きの人には、きっと「たまらない」本。書名の「逛」(guang4)は、多分、ぶらぶら散策する、とでもいう意味。
『逛逛書架』では、島崎博(本名傅金泉。現在は傅博名義で活躍)の本棚も見られる(ミステリファン垂涎もの)。島崎氏は、三島由紀夫全集・書誌の編纂に携わったり、『幻影城』の編集主任を務めたりした人。現在は台湾に住んでおられるが、その本棚には、ごく最近出た、嶋中文庫グレートミステリーズや光文社文庫江戸川乱歩全集も並んでいる。
レジで支払いを済ませるとき、女性店員が二人して勢いよく声を揃え、「bababa(パーパーパー=888元です)」と何故か嬉しそうにいうので、会釈してこれに応えていたのだが、あとでよくよく考えると、彼女たちが嬉しそうにしていたのは、台湾では「8」が非常に縁起のよい数字と看做されているからではないか、ということに気がついた(台湾には、占いだの風水だのに凝る人がかなり多い。書店の一角を「大衆心理學」というコーナーが占めていて、心理学というよりは占いに関係する本がたくさん置いてあった)。
誠品書店のなかにあるカフェで、妹にフレッシュジュース(コーヒーだと目が冴えるかと思ったので)を奢ってもらい(情けなや…)、タクシーでXホテルへ帰る。
午前一時半ころ就寝。
本日の教訓。台湾のタクシーは黄色で統一されていて(風水に関係があるみたいだ)、数が非常に多い。大きな通りに出ると、一分も待つ必要が無い。しかも安い(十分くらい乗っても、数百円ていどで済む)。運転手は、すこしの距離でも嫌な顔をせず乗せてくれる。だから台北市内で道がわからなければ、けちけちせず、タクシーをこまめに活用すべし

*1:新本屋にしろ古本屋にしろ、台湾には割引(十五パーセント〜四十パーセント引きくらい)のきく店とそうでない店とがあるので注意が必要だ。