実相寺昭雄、木下順二…

追悼・実相寺昭雄。ということで、『ウルトラマン誕生』(ちくま文庫)を読もうかと捜すが、見当らず。本棚に入れていたはずなのだが。しかし六十九とは、いかにも若い。まだ働きざかりだったというのに。しかも、ちょうど昨日(というか今日の深夜)、『シルバー仮面』の第二話を見たところだったので(平成版の『シルバー假面』ではない、これは全然みていない)、衝撃も大きかった。
実相寺氏の映画についていえば、『曼陀羅』はよく分らなかったが、『帝都物語』『屋根裏の散歩者』『D坂の殺人事件』は割と好きである。この三作品では、(夢野久作によく似た)嶋田久作を起用している。嶋田氏は、NHKの教育番組に出ていて吃驚したことがあるが、「平成版・伊藤雄之介」とでも呼びたくなるような独特のアウラを醸し出している。「怪優」と呼ぶに相応しい。
木下順二も亡くなった(亡くなっていた)。五高出身者。今年もまた、いわゆる「大御所」がたくさんお亡くなりになった、という感じがする。映画監督だけでも、田中登黒木和雄今村昌平、ジェラール・ウーリー、ダニエル・シュミットなど(脚本家のレナード・シュレーダーも最近、亡くなった)。俳優は、ジャック・ウォーデンアリダ・ヴァリ多々良純、竹久千恵子、田村高廣沼田曜一丹波哲郎仲谷昇岡田眞澄関敬六マコ岩松など(最近、『逃がれの街』を再見、甲斐智枝美も夭折したのだなあと悲しくなった)。小説家・詩人は、ミッキー・スピレイン久世光彦小島信夫清岡卓行、日下圭介、茨木のり子灰谷健次郎、上之郷利昭など。学者・研究者では、白川静阿部謹也都留重人、丹羽基二、萱野茂、二宮宏之、江橋節郎など。
プレイバック1980年代 (文春新書)
そういえば最近、村田晃嗣『プレイバック1980年代』(文春新書)*1を読んだのだが、私の生れる一年前、すなわち「1980年」にも、大御所が沢山亡くなっていることを改めて知らされた次第。越路吹雪嵐寛寿郎*2、エーリッヒ・フロム、ロラン・バルト、ジャン・ポール=サルトルマーシャル・マクルーハンアルフレッド・ヒッチコックジョン・レノン……という顔ぶれなのだ。『シリーズ20世紀の記憶 かい人21面相の時代 山口百恵の経験 1976-1988』(毎日新聞社)で補ってみると、大内兵衛ヘンリー・ミラー唐木順三長谷川潔土岐善麿なども、この年に亡くなっている(こころみに、その前年と翌年も見てみたが、やはり今から見ると「大御所」の人は多い…)。
この本のタイトルも、多分、同年に引退した山口百恵の「プレイバックpart2」を意識しているのだろう。
ところで同書には、高坂正堯のことがしばしば出て来る。私は、高坂氏の著作というと『宰相 吉田茂』(最近、中公クラシックスで復活したことを知った)くらいしか読んだことがなくて、あまり馴染みはないのだけれど、次のような回想が差し挟まれるのが、結構おもしろい。

だが、野球オンチの筆者には、「トラキチ」で知られた国際政治学者の高坂正堯が、恐る恐る十津川谷瀬の吊り橋を渡ったニュースのほうが興味深かった。高坂は高所恐怖症で、阪神が優勝したら吊り橋を渡ると公言していたのである。政治や外交でおよそファナティックなものを排したこの碩学が、唯一ファナティックになれたのが阪神タイガースであったのかもしれない。その高坂が六十二歳で急逝したのが一九九六年五月だから、はや十年を経る。国際政治を専攻する学生たちは依然として高坂の著作から学んでいるが、あの独特の肉声を知らない。(p.202)

民主党の前原議員(前代表)が、たしか高坂ゼミ出身者である。前原誠司安倍晋三とともに、一九九三年(五五年体制が崩壊した年)の当選組として、本書にもちょこっとだけ顔を出す(p.29)。

*1:村田氏は、朝生でよく見る人。この本の書評は、今週号の『週刊新潮』にも載っていた。

*2:大森一樹の『オレンジロード急行』で、岡田嘉子とキス・シーン(!)を演じたのが確かその二年前のこと。