グレート・ミステリーズ

某新刊書店にて、嶋中書店や恒文社(恒文社21)の出版物が、バーゲンブックとして放出されている。
「恒文社」の本では、カレル・チャペックのエッセイ選集(一冊税込750円、原価2100円)を幾つか見かけたが、そのうちの旅行記ちくま文庫(全三巻だそうだ)に入ったばかりで、大体同じくらいの値段で文庫版を入手出来る(文庫のほうが数十円高いか)。西脇順三郎中上健次の著作は見当らず。
聞くところによると、中上健次のエッセイ選集を半額以下で放出しているところもあるらしいが、やめてくれ。見かけたらつい買ってしまいそうだ。
「嶋中書店」(社長は嶋中鵬二の子息・嶋中行雄氏)の本は、これは嶋中文庫のグレート・ミステリーズが中心。先月の中旬あたりだったかに、嶋中書店がいよいよ解散手続きに入ったという話を小耳にはさんだのだが(その後、この記事を読んだ)、むべなるかなと思ったものだった。「グレート・ミステリーズ」第二期の刊行がストップしてしまっていたからだ。第十三巻以降が出ていないはずなのだ。続刊案内には、クロフツの「樽」やフィルポッツの「赤毛のレドメイン家」等の書名がみえる。これらは別の訳書で読んだのだが(「樽」は宇野利泰訳の新潮文庫、「レドメイン家」も宇野訳の創元推理文庫―扉に江戸川乱歩の評が引用されているものである―で読んだ*1)、「世界推理名作全集」所収の訳文が文庫、しかも大活字で読めるというので、気になってはいたのだった(全集版だと場所もとることだし)。
「世界推理名作全集」というのは、かつて中央公論社から出たものだ。こういうのは、当の中央公論社(現・新社)は文庫版で出してくれそうにないから、嶋中書店が出してくれることは、(その体制や体質が批判されようとも)まあそれなりに有難いのである。主な名作が大体読めるのだから。私はさほど海外ミステリにのめり込んだ経験をもたないが、いやそれだからこそ、ビギナーのとっかかりとしては良質のラインナップであるようにおもえるのだ。ポー、クイーン、ハメット、チェスタトン、ルルー……。さらに、いわゆる「見立て殺人」(横溝正史ブームが認知度を高めたのではないかとおもう)で有名なヴァン・ダイン『僧正殺人事件』*2倒叙物の祖とされるオースティン・フリーマンの『歌う白骨』*3なども入っている。
それに、嶋中文庫に附いている栞は、「常用漢字表」(いや、正確には表ではなくて単なる「一覧」なのだが)がデザインになっていて、漢字好きであれば、一枚は持っておくべき価値(?)のあるものなのである。

*1:「世界推理名作全集」では、「樽」は大久保康雄訳「レドメイン家」は宇野訳となっているようだが、宇野訳は創元推理文庫版と全く同じものなのだろうか?

*2:私と同世代の人たちは、「誰がコック・ロビンを殺したか?」で先に想起するのはマザー・グースではなく、「パタリロ!」のパタリロ音頭であるような気もするのだが……。

*3:こちらにはマザー・グースではなくて、ドイツ民話からの引用がある(グリム童話にも入っている)。兄に殺された弟の白骨が笛にされて兄の無慈悲な仕打ちを愬えるという話だ。