読書の腕前

読書の腕前 (光文社新書)
岡崎武志『読書の腕前』(光文社新書)を、電車に揺られながら読了。退屈男さんがさっそく読了後の感想を書かれているように、わたしもたいへん面白く読んだ。佐藤泰志プリーモ・レーヴィなど、気になる固有名詞をチェックしながらの楽しい読書だった。「同病のよしみで読む」(pp.176-78)を読んで――これは糖尿病がテーマになっているのだが――、森敦『文壇意外史』(朝日新聞社,1974)を再読したくなる。で、本棚から引っぱりだす。「特効薬」(pp.107-117)では喘息に苦しむ中島敦が語られ、「反目」「真剣白刃取り」(pp.166-188)では痔疾に苦しむ横光利一室生犀星北川冬彦のことが語られる。もっとも著者の森氏自身は、若いころ喘息に苦しめられたことはあるらしいが、痔持ちではない。けれども、弟が痔持ちだったのだそうだ。
また、p.190の『かもめ』(寺山修司・文、下谷二助・絵)の書影を見て、南山宏『ちょっと不思議な話』『ちょっと不思議な話2』(学研ムースーパーブックス,1992・1994)の存在を思い出し、部分再読。これは絵本ではないし、それに『ムー』連載記事をまとめたものということもあって、いわゆる「眉唾モノ」の話も少なくないのであるが(南山氏自身、その「あとがき」に、「話の事実性の厳密な検証も二の次にしてある」と書いている)、下谷二助のシュールなイラストが内容によくマッチして(それどころか、下谷氏の本領が発揮されているような気さえする。『買ってはいけない』などのような煽り本には却って似合わないとおもう)、読後に不思議な後味をのこすのだ。
他に「『少年探偵』シリーズ――"悪い本"の放つ魅力」(pp.206-11)も、ポプラ社版「少年探偵シリーズ」(全四十六巻)を一種の「通過儀礼」として手に取った(ぎりぎりの)世代の人間として、面白く読んだ。この本が見たさに、耳鼻科(待合室の本棚の最上段にそれはあった)の通院を楽しみにしていたあのころが懐かしい。しかし、現在発行されているポプラ社のシリーズには、大人向けのものを子供向けの読み物としてリライトした第二十七巻以降が入っていないのだ。残念なことである。