圭祐にあらず

 尾崎雄二郎『漢字の年輪』(角川書店)に、「佳子の場合」という文章が収めてある。
 「佳」は漢音カイ、呉音ケで、そのケが長く引張られたために、「佳子」が「ケイコ」と読まれてしまう可能性は否定できないのだが、尾崎氏はこれを呉音由来のものではなく、類推音とみている。

佳の、そこ(『隋唐音図』のこと―引用者)にある古音ケイも、ことによると佳子などの名乗りから、その古形だと思量せられた可能性も否定できないだろう。何より先に書いたように、佳子に対応する解・懈のほうにケイの表記のないことは、佳の呉音の実在形としてのケイの存在を疑わせるものだと言ってよい。私はなお私の、佳のケイは圭を佳の代わりに読んだものとする説への執着に理由があるとしてもよいだろう。(p.107-08)

 また尾崎氏は、その「理由」のひとつとして、女子の名乗りで「圭」を「カ」と読ませるという全く逆の例が、荒木良造『名乗辞典』にみえること――を挙げている。