「ひもとく」そのほか

 よみうりテレビの「情報ライブ ミヤネ屋」(19日放送)を見るともなく見ていると、はるな愛の「その人とね、ちゃんと順番にひもといて愛に向かっているので」という発言を耳にしたので、あわててメモをとった。
 「ひもとく」の耳なれない用法である。
 するとほどなく、同番組内で、「恋多きはるな愛さんの歴史をひもといてみます」(城下尊之氏)という発言があがった。こちらの「ひもとく」は、誤用とされたり俗用とされたりするものである。
 ところで、「ひもとく」の本来の用法はというと、たとえば次のごとくである。

 本書の読者にあっては、必ずや右書冊を繙(ひもと)かれたい
(渡邉一考「解説」,加藤郁乎『後方見聞録』学研M文庫2001:312)

 現代人であっても、悩みや悲しみはもとより、人生の選択に悩んだときに『言志四録』をひもとく人も多いだろう。(山内昌之『歴史という武器』文藝春秋2013:88)

 このように、「書物を読む」というのが元来の意味であった。『岩波国語辞典』『新明解国語辞典』『明鏡国語辞典』最新の版の「ひもとく」項を引いてみたが、この語釈しか載せていない。
 しかし国広哲弥『新編 日本語誤用・慣用小辞典』(講談社現代新書2010)は、「ひもとく」の新しい用法について言及している(pp.112-16)。それによれば、近年は「分析する」「解明する」「解きほぐす」等の義で「ひもとく」を用いたものが増えているといい、実例があがっている。
 以下に挙げるのも新用法だが、「公開する」というニュアンスを含むようである。

 本書では、そうしたクイズにおける勉強法をひもとき、みなさんに披露していきたいと思います。(日郄大介『クイズ王の「超効率」勉強法』PHP新書2013:13)

 しかし、はるな愛の発言中の「ひもとく」は、上の何れによっても解釈できない。「かたく結ばれたひもを少しずつほどいてゆくように」、というニュアンスで使ったようだから、「解きほぐす」に近いものかとはおもうが、どのような言葉に置き換えればよいだろうか。

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 最近、「へえ」とおもったこと。
 久田将義関東連合―六本木アウトローの正体』(ちくま新書2013)を読んでいると、p.44,p.67などに、「みなごろし」という暴走族の名が挙がっていた。漢字雑学本のたぐいでは、しばしば「鏖(オウ)」という形で紹介されているのだが、実際は、その異体字を使うのが正確であるらしい。

 冷玉龍ほか編『中華字海』(中華書局ほか1994)はこの異体字採録するが、さほどメジャーなものではないようである(典拠は『漢書』霍去病傳の顔師古注)。

 行均編『龍龕手鏡(高麗本)』(中華書局1986を参照した)にはこの形は出ておらず、「金偏に鹿」という異構のものしか採録していない。「音鹿(ロク)」という直音注がメインで、「オウ(アウ)」の方は又切で出ている。その後に「鏖と同じ」、とある。
 
(「鏖」http://glyphwiki.org/wiki/u93d6-ue0100