幾度目かの坊っちやん

直筆で読む「坊っちやん」 (集英社新書ヴィジュアル版) [ 夏目漱石 ]
夏目漱石『直筆で読む「坊っちやん」』(集英社新書ヴィジュアル版)、『ななじゅうまる 関西版』(フィード)を本屋で購った。『坊っちやん』直筆原稿の複製版は、かつて番町書房が出していたけれど、古書で買っても(というか、古書で買うとなおさら)値が張るものな。それを考えれば、1200円(+税)というのは実に安い。巻頭には秋山豊「直筆原稿を「読む」たのしみ」、巻末には夏目房之介「読めなかった祖父の原稿」も附いていて、いずれも、特に文字に興味をもつ人にとっては楽しい読み物になっている。
これで、手持ちの『坊っちやん』はいったい何冊めになるだろうか。多分、四冊か五冊は持っているのではないかと思う。
最初に読んだのは小学三年生の頃。課題図書として、なかば無理やりに読まされた恰好だった。それでも、なかなか面白く読んだのだった(その当時は、本がさほど好きではなかった)。これが金の星社版。それから新潮文庫版や岩波文庫版も後に購入し、これらもまだ持っているはずで、ごく最近は、ダイソー版(100円)も買って再読した。漱石の作品で、これほど何冊も持っているのは、『坊っちやん』だけである。
漱石の主要作品はそれなりに読んできた積もりだが、恥ずかしながら、『吾輩は猫である』『明暗』は、まだその一部しか読んでいない(『猫』は、「トチメンボー」をめぐるペダントリーな会話のあたりで、いいかげんうんざりした)。『猫』は、よく言われるように、“中年文学”だと思う。いずれ再挑戦してみるつもり。
三四郎』や『行人』も、最近再読して、ようやくその面白さが分かってきたくらいだ(『薤露行』は、初読の時点から夢中になった)。しかし『坊っちやん』は、語り口の軽妙さもあって、これは何度読んでも面白い(と思う)。少なくとも私にとっては。
ところで、必要あっていま借りている『国語文字史の研究 八』(和泉書院)に、これは偶々なのだが、佐藤栄作氏の「『坊っちやん』原稿に現れた漱石の手書きルールについての覚え書き」、田島優氏の「漱石の特徴的なあて字――字音的・字訓的表記と意味的表記との混交――」という論文が収めてあって、特に前者の論文を、直筆原稿とつき合わせながら読むと楽しい。
◆某先生から、山田俊雄監修・解説 鈴木隆編「『言海』完成祝宴の全記録」(タングラム)の複写版を頂いた。貴重な本で、なんと、シリアルナンバー入りだ。『言海』については、いずれ、ちょっと書いてみたいとおもっていることがある。