天神さんの古本市

◆朝出る、お供本は柏原兵三『長い道』(中公文庫)。柏原はこの作品で芥川賞をとりたかったらしい。文章も、実に素直な感じがして、好感がもてる。藤子不二雄Aの漫画『少年時代』、篠田正浩の同名映画*1の原作であるせいか、郷愁とか懐古趣味とかいった側面から語られることも多いが、それは気の毒である、柏原がこれをいわば「自伝的小説」という形に仮託したのは照れ隠しのためだったのではあるまいか。柏原がこのようなビルドゥングスロマンふうの作品を多く手がけたのは、ドイツ文学を専攻したことの影響もあるのかしら。
天神さんへ行った。成果は、まあ、そこそこ。

など。肥後郷土誌の『呼ぶ』二冊100円、また他に幾冊か買ったが多分ダブり。津田左右吉といえば岩波新書の『支那思想と日本』(のち『シナ思想と日本』に改題、わたしが所有しているのも改題後の版)が抜群におもしろく、個人的には新書オールタイムベスト10に選出したいくらいなのだが(のちに『座右の名文』を読んで、高島俊男氏もこの書に感銘を受けたと知った)、現在品切とのことで残念、でも初版の「まえがき」なら『津田左右吉歴史論集』(岩波文庫)で読める。この本には物議をかもしたことで有名な(その経緯については奥武則『論壇の戦後史』等にくわしい)『世界』寄稿論文(「日本歴史の研究に於ける科学的態度」「建国の事情と万世一系の思想」)も収めてある。

*1:この映画が、柏原から藤子不二雄Aへ、そして脚本担当の山田太一へ、というふうに、特定の世代(はっきりいってしまえば疎開組)に限定される共感の連鎖によって造形されて行ったことは確かなことである。