マニアというほどのものではないが、国語辞典を読むのが好きである。あたらしい辞書が出ると、少々無理をしてでもついつい買ってしまう。最近では、「新(改定)常用漢字表」に対応した北原保雄編『明鏡国語辞典【第二版】』(大修館書店)を購った。初版に約4,000語を増補したのだそうで、さらに別冊附録として「問題なことば索引」がついている。それにも拘らず、初版より約500円も安くなった。初版が出た頃は、新聞記事になるなど話題になったものだが、「他山の石」「二酸化炭素」などの項目が漏れてしまった、という話も聞いた。
第二版には、最後の項目として「んない」が追加されている(初版の最後の項目は「んとする」)。
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時枝誠記編『例解国語辞典』(中教出版,以下『例解』)は入手困難な名辞書として知られるが(私もまだ持っていない。見たことがあるだけ)、それと関聯する記事で、このあいだおもしろく読んだものがある。
このノートはかなり貴重である。
さて、『例解』はどのような評価がなされているのかというと、たとえば山田忠雄『三代の辞書―国語辞書百年小史』(三省堂,1967)には、「品詞、ことに名彙の取り扱いに特徴を見せると共に、旧来の殻を破って語義そのものを長めの語釈によって明らかにする立場を打ち出し、一つの革命を試みた*1」(p.26)、とある。
『例解』について書かれた文章としては、「悲劇の名辞書」(石山茂利夫『国語辞書事件簿』草思社,2004)を挙げないわけにはゆかない。この文章に書かれていることをかいつまんで述べると、『例解』初刷(奥付は「版」だが、石山氏が「刷」表記に統一している)には約八三〇項目の「積み残し」があり、それが十二刷まで漸次解消され、十三刷にいたって改訂作業が完了した*2、ということになる(「改版」扱いはせずに!)。石山氏は、遺漏が特定の音節ではじまる語に集中しているということから、これはおそらく編集者の原稿の出し忘れが将来した事態であったろうと推測している。
また、『例解』は凡例で「字体は一般通用の略字または俗字を示した」とうたっているのだが、これについて「俗字ではなく当用漢字にもとづいて作られていること」を指摘したのが、「国語改革熱が封印された辞書たち(下)」(石山茂利夫『国語辞書 誰も知らない出生の秘密』草思社,2007)である。
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語釈の記述法に革命をもたらしたレイカイ(『例解国語辞典』―引用者)は、私立の名門武蔵高校国語科の先生たちによって事実上作られた。序文に名前が出ている執筆者四人のうち三人は同高教師、残る一人は版元の社員である。
名が出ていない執筆者がこのほかに三人。二人は同高卒の現役東大生で、教師たちが「アイツなら間違いない」と選び抜いた俊英だったという。もう一人は執筆する教師の妻で、国語学を修めた人とのこと。スタッフの大半は三三歳以下の若者だった。(p.106)