『ダイヤルMを廻せ!』(1954,米)“Dial M for Murder”
監督:アルフレッド・ヒッチコック、原作・脚本:フレデリック・ノット、撮影:ロバート・バークス。1952年にブロードウェイで大ヒットした、フレデリック・ノットの戯曲を映画化したものです。脚本のよさによるところも大きいのでしょうが、さすがはヒッチコック、密室劇(にほとんど等しい)だのに、目を離せない展開が連続の作品です。『知りすぎていた男』(1955)を髣髴とさせるような、粋で唐突なラストにも感銘をうけました。
「理」でトニー(レイ・ミランド)を落そうとするマーク・ハリディ(ロバート・カミングス)と、「知」でトニーを追いつめようとするハバード警部(ジョン・ウィリアムズ)。この対比も、おもしろく観ました。「理」の代辯者たるマークは、「古畑任三郎」第三部における「八嶋智人」のような狂言回しにちかい存在だといえましょう。
ちなみに、この映画は、マーゴ(グレース・ケリー)によるレズゲイト大尉(アンソニー・ドゥスン)殺害のシーンが場面から飛び出すという、いわゆる「立体(3D)映画」として製作されていたそうですが、そのころすでにブームは去っていたので、計画倒れに終ったようです。
また、1998年に、マイケル・ダグラス主演でリメイク(オリジナルストーリーだから、正確にいうとリメイクではありません)されましたが(『ダイヤルM』)、こちらは未見です。
『女吸血鬼』(1959,新東宝)
監督:中川信夫、製作:大蔵貢、助監督:石川義寛、原作:橘外男『地底の美肉』
脚本はそう出来のよいものではありませんが、エログロ新東宝の持ち味が存分に発揮されています。吸血鬼の「血の呪い」の淵源は、島原の乱にあった…という、アクロバティック的な奇想のすごさには降参です。
それから、新東宝ならではの配役の妙。まず、吸血鬼・竹中信敬に天知茂。『一寸法師』(1955,新東宝)の和久井勉(小人)。『亡霊怪猫屋敷』(1958,新東宝。これも原作は橘外男)など、不気味な老婆を演じさせたら右に出るものがいない五月藤江(老婆)、そしてあまり強くない、見掛け倒しの晴海勇三(海坊主)などなど…。この異形の者たちを見よ!
もちろん、三原葉子(松村美知子)、池内淳子(松村伊都子)などの美女たちが出演するというのも観もの。
それにしても、ラストは『孫悟空』(1959,東宝)の展開にちょっと似ています(ネタばらしになるのかな)。なんというか、腰くだけの結末なのです。