ささやかな収穫

芸人 その世界 (岩波現代文庫)
きのうのシンポジウムについては、まだまだ書き足りないのですが、また機会があればかこう、とおもっています。今日は、きのうの「収穫」についてメモしておくことにします。
Qさんと会場を出たのが午後五時過ぎ。京都の地下街で早めの夕食をとり、七時まえに京都を出る。また書きますが、六月半ばや七月半ばにも京都へ行く用事があるので、ぜんぜん名残惜しくない。「○○書店」だの「××ブックセンター」だのといった店名が目先にちらつきますが、ここは我慢我慢。
大阪駅でQさんと別れる。中途半端な時間なので、紀伊國屋書店梅田本店にはいる。うまいぐあいに「倒産出版社ブックバーゲンフェア」がやっていました。土曜日(一昨日)から始まっていたようで、六月二日まで開催されているとの由。
対象出版社は、三年前に倒産した「同朋舎」と「勁文社(とくに文庫やゲームの攻略本)」、それから、よくわかりませんが藝術系の出版社が幾つか。
余談ですが、「ケイブンシャ大百科シリーズ」は幼いころにたくさん持っていました。『ウルトラ怪獣百科』とか『妖怪大百科』とか『恐竜大百科』とか『怪奇ミステリー大百科』とか『宜保愛子の霊視大百科』とか、そんな類*1。青紫色と、紫がかった桃色の斜めのストライプが懐かしい。私は、勁文社が倒産していたことを、『全怪獣怪人大事典(全三巻)』(英知出版)が刊行されたことによって知りました。つまり倒産してから約一年後。
実をいえば、「同朋舎」が倒産していたのは不覚にも存じませんでした。
フェアには、私の学科に関係ある本は出ていなかった(たぶん)のですが、大好きな妖怪・伝奇系の本がごろごろ転がっていたので、調子に乗って五冊拾いました。
東雅夫『百物語の百怪』(同朋舎/角川書店*2
村上健司『妖怪十二支参り』(同朋舎/角川書店)
『日本怪奇幻想紀行 四之巻 芸能・見世物録』(同朋舎/角川書店)
『日本怪奇幻想紀行 五之巻 妖怪/夜行巡り』(同朋舎/角川書店)
『日本怪奇幻想紀行 六之巻 奇っ怪建築見聞』(同朋舎/角川書店)
定価で買うと8,505円もするのですが、なんと八割引で1,701円!
東氏の本と村上氏の本は、ともに「ホラージャパネスク叢書」の一冊。特に前者は、このあいだ読んだ、東雅夫編『闇夜に怪を語れば』(角川ホラー文庫)の巻頭対談「新説『百物語』談義」(東雅夫×京極夏彦)に何度も登場したので、非常に気になっていたところ。ちょうどよいタイミングで入手できました。
『日本怪奇幻想紀行』は、一之巻から三之巻が見当らなかったのが残念ですが、たしか「六之巻 奇っ怪建築見聞」は絶版ではなかったか。どこかで数千円の値もつけられていたはず*3。この本は、妖怪とか怪談とかに全く興味のない方にもおすすめします。
あ、そうそう、ブックフェア会場で某古書肆の店主の姿も見かけたのでした。
さて今日は、正午ころに家を出ました。研究室に荷物を置いて書庫へ。そこで三時間くらい過ごす。借りたい本はたまる一方。
六時半に大学を出る。
昨日から、電車のなかで読んでいるのが永六輔『芸人 その世界』(岩波現代文庫)。三十年ほど前に文春文庫に入っており、古本屋でも見かけたことがありますが、あえて手に取ろうとはしませんでした。それがこんなに面白いとは。
「芸人 その下半身」という章は、なんとなく硬派なイメージがある岩波現代文庫にはふさわしくない(?)ような気もするのですが、そこがまたよいのです。
その章の最後で、著者が次のように書いているのがおかしい。

下半身には人格が無いというものの、これだけエピソードが並ぶと、並べた方も肩身がせまい。
かといってカットしてしまうと上半身だけで人間臭さが出ない。
出来れば読めないぐらいに活字を小さくしたかったのだが、その点を御了解いただいた上、気分直しに次のページへおすすみ下さい。(p.99)

「芸人 その環境」という章では、「興行」が真剣勝負であった時代が描かれ、それが「芸人 その待遇」になるとさらに遡った地点から語り起される。
たんなるトリヴィア本ではありません。ほとんどが引用*4なのですが、エピソードの配置のしかたや語り口調が絶妙で、著者なりの演劇評になっています。

芸も、芸人も、その世界も変りつつあるが、変らせてはいけないものもある。
それは芸人であることの後ろめたさだ。
その後ろめたさと戦うのが芸の修行だ。(p.132)

明日、読了する予定。

*1:書名は、正確でないかもしれません。なにしろ、手許にはもう残っていないので。

*2:発行が同朋舎、発売が角川書店という意味。以下おなじ。

*3:だのに、冊数においては他の四冊を陵駕していました。

*4:巻末の「参考資料」一覧がすさまじい。