レア本がついに

關山守彌『日本の海の幽霊・妖怪』(中公文庫BIBLIO*1)が、ついに出ました。
これは關山氏の遺稿集で、1982年に私家版として出ています(学研が編集協力)。
關山氏が亡くなったのは1981年の暮れで、享年五十四。その死は、あまりにも突然だったようです。
臼田甚五郎氏は「序」で、こう書いています。

あまりにもあつけない死を迎へてしまつた。關山守彌君、どうしたのだ、君が此の世を去ることの何と早かつたことよ。
それは昨年*2の晩秋晩冬の間であつた。君が原稿を持つて研究室を訪れた。本にして世に出したいが、序文を書いてほしいといふことであつた。それから一ケ月も経たないうちに……。
まさかかかる序文を書かなければならないとは、夢にも思わなかつた。まう(ママ)言葉はとどかない。あああつてほしい、かうあつてほしいと呼びかけても、もはやあとのまつりになつてしまつた。

關山としえ夫人も、「お礼にかえて」で次のように書いています。

生きている証にしたいと、あんなに出版したがっていた著作も、自分なりにまとめ上げ一段落した直後、手に触れることなく逝ってしまい、遂に遺稿となってしまいました。このうえなく憐れでございます。

しかし、そういう本がこうして文庫化され、ふたたび注目される。なんと素敵なことではありませんか。
それから、巻末の「先輩関山守彌さん」(野村純一*3)がまた、味わう価値のある文章なのです。関山氏との出会いについて書いたあと、野村氏は次のように続けます。

思い出話を書いていると、きりがない。もっとも、そうこうしていると「誰に頼まれたか知らねえが、言いたい放題書いてくれるよなあ、これじゃあ、割りに合わねえよ」といった関山節が聴こえてくるようである。関山節といえば、茨城生まれの関山さんはいつもいつもエとイの区別があやふやで、一杯機嫌になるとそれは一層際立った。傍からそれをいうと破顔一笑「うるせえことだ」と言って、金歯を光らせた。本書の原稿を読んでいると菅江真澄はいずれも菅井真澄になっていた。耳に入ったのをそのまま表記したからなのであろう。「菅井真澄か、関山さん相変わらずやるなあ」と、つくづく思う。

『日本の海の幽霊・妖怪』は、「中公文庫BIBLIO 異の世界」の一冊なのですが、このシリーズに入っている本は、いずれも食指が動くものばかりです。しかもその全てに、巻末索引を附してくれているのが有難い。
「異の世界」に入っている本のうち、まず江馬務の『日本妖怪変化史』は、かつての中公文庫版が千八百円で売られていたのを見かけたことがあり、それならば新刊で買った方が安いからと、BIBLIO版を購ったのでした。また、池田彌三郎『日本の幽霊』は、買おうとおもいつつもそのままになっています。今野圓輔の『日本怪談集(妖怪篇・幽霊篇)』は、教養文庫版をもっています*4。とくに、「妖怪篇」はおすすめです。

*1:カバーを外してしまったら、中公文庫と同じなのですが。

*2:昭和五十六(1981)年。

*3:拙ブログ上で、その著書『江戸東京の噂話』(大修館書店)を取上げたことがあります。

*4:中公文庫BIBLIO版はいずれも二分冊(だから全四冊)で、かなり高い。